騎士道は全てを解決する!? SCP-4028 – ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝 紹介と考察

SCP紹介&内容整理
この記事は約38分で読めます。

本家SCP財団の著者の一人で、SCP-2639 – ビデオゲーム・バイオレンスやSCP-3074 – カフカの駐車場などで知られているThe Great Hippo氏。当サイトでも氏のホラー作品である『SCP-2571 – クラッグルウッド・パーク』紹介と考察。SCP-3117 – 怪物の形をした穴 紹介&考察を紹介してきました。

その作品は非常に完成度が高く、人気作品も多いです。

今回はそんなThe Great Hippo氏の作品の中から、財団内部部門のひとつである空想科学部門が登場するSCP、SCP-4028 – ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝を紹介・考察してみます。

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SCP-4028 – ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝

ではさっそくSCP-4028を見ていきます。冒頭部分には以下のような注記が書かれています。

注記: あなたが閲覧しているのは該当ファイルのアーカイブ版です。
当ファイルは現行文書の過去のバージョンです。そのためロックされ、アーカイブされています。内部に含まれる情報は不正確であるか、最近の利用可能なデータを反映していない可能性があります。

詳細については、この異常存在の現任の収容監督官(pmenard@scp.pataphysics)まで連絡するか、あなたのIntSCPFNサーバー管理者までEメールを送ってください。

ピエール・メナール、空想科学部門 部門長

注記によるとこちらのファイルはアーカイブ版であり、書かれている内容は過去の情報であるようです。注記を記したのはピエール・メナールという人物で、空想科学部門の部門長のようです。

空想科学部門についてはまた後ほど説明しますが、SF(サイエンス・フィクション)という意味ではありません。

それでは特別収容プロトコルに移ります。

特別収容プロトコル

特別収容プロトコルは以下のようになっています。

SCP-4028の実効的な収容プロトコルの開発が進行中です。この間、職員はSCP-4028によってフィクション内で引き起こされる原典からの逸脱を全て削除することに注力します。これを達成するため、以下の措置が講じられています。

  • 財団運営Bot(I/O-ISMETA)は西洋文学に焦点を当てた学術雑誌を監視し、原典から逸脱しているテキストについて論じている記事を審査のためにフラグ付けします。
  • 財団運営Bot(I/O-MANDELA)はオンライン上の創作コミュニティを監視し、原典から逸脱しているテキストについての議論を審査のためにフラグ付けします。
  • 確立された文学的原典を逸脱しているテキストは、それらの逸脱がSCP-4028による改変の証拠を構成しているか否かを判断するため、機動部隊ロー-1(“プロフェッサー”)によって審査されます。
  • 改変を受けたテキストが特定された場合、機動部隊ロー-1(“プロフェッサー”)、機動部隊ミュー-4(“デバッガー”)、機動部隊ガンマ-5(“燻製ニシンの虚偽”)が公的記録からそれらのテキストに関する全ての記録(デジタル・物理媒体・事例証拠)を削除します。
  • 可能であれば、改変されたテキストは本来の状態に復元されます。不可能であれば、これらのテキストは破壊されます。

どうやらSCP-4028はフィクションを改変する異常性があるようで、財団職員は改変されたテキストがないかを財団運営Botを利用して監視し、改変が見つかればそのテキストを秘密裏に消去。元のテキストへと復元しているようです。オブジェクトクラスはKeterです。

それでは説明を読んでみます。

説明

説明: SCP-4028はミゲル・デ・セルバンテスが著した17世紀スペインの小説、“El Ingenioso Hidalgo Don Quijote de la Mancha”(“奇想驚くべき郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ”、通称“ドン・キホーテ”)の主人公、アロンソ・キハーノです。“ドン・キホーテ”の作中におけるアロンソ・キハーノは、騎士道物語の読み過ぎで発狂したスペイン貴族(または郷士、Hidalgo)です。彼は遍歴の騎士を自称してドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと名乗り、純朴な農夫(サンチョ・パンサ)を忠実な従士として旅に誘います。“ドン・キホーテ”はセルバンテスによって前後編に分けて出版されました(前編は1605年、後編は1615年)。同作は西洋文学において最も影響力ある作品の一つと広く認められています。

説明によれば、SCP-4028は著名な西洋文学である『ドン・キホーテ』の主人公、アロンソ・キハーノであると書かれています。

ドン・キホーテとは17世紀のスペインの作家、ミゲル・デ・セルバンテスが書いた実在する小説で、全世界で5億部以上が売られたとされる世界的なベストセラー作品です。

ドン・キホーテのあらすじは、騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなったスペイン下流貴族の主人公アロンソ・キハーノが、自分自身を諸国を巡り歩く遍歴の騎士、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャであると思い込み、サンチョ・パンサという農夫を従士として引き連れ、世の中の不正を正す旅に出るというものです。

騎士道物語とは12~13世紀に西欧で発達した物語で、騎士道に殉ずる騎士が苦しむ民や貴婦人のために強大な敵や怪物を打ち倒し、栄光を掴むという筋書きの作品です。

アロンソは、実際はそうではないにも関わらず自身を取り巻く世界を騎士道物語の世界として都合良く解釈するため、様々な騒動を引き起こします。風車を巨人と思い込み、突撃するシーンが有名です。

ドン・キホーテの主人公アロンソ・キハーノがSCPに指定されているとはどういうことでしょうか?続きを見てみます。

SCP-4028は自らが占めるテキストと近接する架空のテキストに内在し、その内容を説話的に改変することが可能な、知性あるメタフィクション構造です。近接関係はテキスト間で共有されるキャラクターや設定によって決まります。SCP-4028は侵入した物語を、自らが抱く騎士道精神の理想とより緊密に合致する内容に改変します。これには無力と見做した登場人物を保護し、邪悪と見做した者を打ち倒し、ロマン騎士道の美徳を称賛する行為が含まれます。

SCP-4028は架空のテキストに入り込み、その作品を騎士道物語に沿うように改変する異常性があるようです。ドン・キホーテの作中、アロンソ・キハーノは自身を取り巻く環境を都合良く解釈し騎士道に邁進していますが、それだけに留まらす他の作品にも侵入して、騎士道物語の世界に作品自体を書き換えているようです。

『無力と見做した登場人物を保護し、邪悪と見做した者を打ち倒し、ロマン騎士道の美徳を称賛する』という展開は騎士道物語そのものです。

補遺4028.1にはその例が記録されていました。

補遺4028.1: 改変されたテキストの例

オリジナルの文書 改変
詞 “大鴉”が掲載されている1845年の“ニューヨーク・トリビューン”紙。 第七反復句の後、アロンソ・キハーノが騎馬で到着し、大鴉を斧で叩き落とす。詞の残りは、語り部が喪った恋人レノーアと、アロンソが愛するドゥルシネーアのどちらがより魅力的かを巡る、語り部とアロンソの議論である。詞は殴り合いで終了する。(脚注1、ドゥルシネーアの本名はアルドンサ・ロレンソ。彼女は百姓娘であり、アロンソの存在さえも知らなかった。)

「大鴉」(おおがらす)は怪奇・探偵小説の作家として有名なエドガー・アラン・ポーが1845年1月29日に発表した物語詩です。

恋人レノーアを失った主人公が、部屋を訪れた「二度とない」と繰り返し喋る大鴉に話しかけるうちに、狂気に陥るという内容です。

改変後は大鴉が途中で倒され、互いのヒロイン自慢を始めたあげくに殴り合いに発展。幻想的な雰囲気がぶち壊されています。ドゥルシネーアはドン・キホーテの登場人物で、騎士道物語に必要な貴婦人としてアロンソが心に決めた女性です。といってもこれはアロンソの思い込みであり、実際の彼女は貴婦人ではなく、ただ近くの村に住む田舎娘でした。

アロンソは旅の途中ドゥルシネーアの美しさを認めなかったという理由で、出会った商人に襲いかかって返り討ちにされています。

オリジナルの文書 改変
1847年の英語版“クリスマス・キャロル” エベネーザ・スクルージが墓地に到着した後、アロンソ・キハーノは未来のクリスマスの幽霊に騎馬で突進し、打ち倒す。アロンソはその後、エベネーザを疲れ果てたロシナンテ(脚注2、年老いた、辛抱強い馬。)に乗せて家へ送る。物語は改変前と同様に続き、エベネーザは改心してベッドで起床する。追加された最後の段落で、“死神その人を討ち果たした”謎の騎士に対する世界からの感謝が言及される。

『クリスマス・キャロル』は1843年に出版されたチャールズ・ディケンズによる小説です。

改変されたのは1847年の英語版となっています。本来のあらすじはクリスマスイブの夜に、強欲で人間嫌いな老商人、エベネーザ・スクルージが、彼の前に現れた3人の幽霊により過去・現在・未来を見ることになり、最後には心を改めるというものです。

改変後は幽霊が倒されますが、結末は変わらず、騎士への感謝が加わってます。ロシナンテはドン・キホーテで主人公が乗る馬の名前です。

オリジナルの文書 改変
1876年の英語版“ある遊女の回想記”(通称“ファニー・ヒル”)。 ファニーは“奥様”に向けて、騎馬で登場し、彼女をおびき寄せる直前の売春宿を打ち倒した謎の騎士について書き綴っている。謎の騎士はその後、彼女に“もはやこれを必要とせぬ、欲深だった男”から受け取ったという金貨の袋を与える。ファニーはこの金を使って、彼女のように貧しく弱い子供たちのための孤児院 兼 学校を設立する。本の残りは、ファニーが様々なフラワーアレンジメントの楽しさと意味を語るというものである(挿絵付き)。

『ファニー・ヒル』は1748年と1749年に出版されたジョン・クレランドによる性愛小説です。

過去には様々な国で発禁処分の対象となっていた作品で、フランシス・ファニー・ヒルという主人公の女性が”奥様”に向けて過去の男性遍歴を手紙に書き綴るという形式で書かれています。

主人公は職を求めてやってきたロンドンで騙されて売春宿に誘い込まれますが、改変後は売春宿が打ち倒され、まったく情事のないまま幕を閉じています。

オリジナルの文書 改変
1881年のフランス版“ジュスティーヌあるいは美徳の不幸” 物語の開始時点で、アロンソ・キハーノは12歳のジュスティーヌに合流する — 彼は小説が終わるまで彼女と同行する。改変前のジュスティーヌが受ける拷問、暴行、強姦の要因となった全ての出会いは、関係者が登場するなりアロンソの先制攻撃で打ち倒されることで解決している。ジュスティーヌは最終的に姉のジュリエットと再会する。アロンソは彼女ら2人を直撃するはずだった落雷を打ち倒し、小説の語り部に決闘を挑む。物語は姉妹が巨額の遺産を相続し、末永く幸せに暮らしたと述べて速やかに完結する。

『ジュスティーヌあるいは美徳の不幸』はサディストの語源となったことで知られるマルキ・ド・サドが1787年に著した小説です。

修道院から若くして追い払われ、別離した姉妹の物語で、淫蕩と悪辣を極めて伯爵夫人の地位と財を得た奔放な姉のジュリエットが偶然興味を持った女囚の告白を聞くという形でストーリーが進行します、この女囚が妹のジュスティーヌであり、彼女は姉とは真逆に美徳を追求して様々な加害行為に晒されたことが明らかになっていきます。

改変後はアロンソの先制攻撃により加害行為がまったく発生せず、落雷までもが打ち倒され、ハッピーエンドを迎えます。

落雷を打ち倒す……。

オリジナルの文書 改変
1956年の英語版“旅の仲間”。 アロンソ・キハーノはエルロンドの会議で登場し、誰が指輪所持者となるか馬上槍試合で決めることを提案する。この案がガンダルフに一蹴された後、アロンソは「然らば、この馬鹿げた用向きは拙者自らが終わらせましょうぞ」と宣言する。彼は指輪を持ってモルドールへ騎馬で赴き、道中で遭遇した全ての悪役を打ち倒す。到着した彼は指輪をサウロンに返還し(「これは貴殿の財産であり、ゆえに貴殿には正当な権利がある」)、決闘を挑む。サウロンはこれを受け入れ、即座に打ち倒される。

『旅の仲間』はJ・R・R・トールキンが書いた『指輪物語』の第一部のタイトルです。

ホビットのフロド・バギンズが冥王サウロンによって作り出された一つの指輪を破壊するために、魔法使いガンダルフなどの仲間と共にモルドールへと旅に出るというストーリーです。

改変後は、サウロンへの対策と一つの指輪の処置が協議されたエルロンドの会議でアロンソが登場。単独でモルドールへ向かい、全悪役を撃破して、指輪をサウロンに返還してからサウロンを打倒しています。

恐るべき騎士道精神……!

オリジナルの文書 改変
1982年の英語版“ダーク・タワーI: ガンスリンガー”。 導入直後(“黒衣の男は砂漠の彼方へ逃げ去り、そのあとをガンスリンガーが追っていた”)、アロンソが騎馬で登場。彼はウォルター(黒衣の男)に追い付き、剣の一撃で無力化した後、ローランド(ガンスリンガー)の下まで引きずり戻す。目覚めたウォルターは(アロンソの監視下で)ローランドとの名誉ある決闘を強制される。ローランドはウォルターを打ち倒す。小説の残りは、アロンソが有徳の騎士とはどのようにあるべきかをローランドに説く掌編の集まりで構成されている — アロンソの指示には、ジェイクを従士として連れ、荒野で悪と戦うことが含まれる。

『ガンスリンガー』はスティーブン・キング著のダーク・ファンタジー、『ダーク・タワー』シリーズの第一作です。荒廃した世界を舞台に、「黒衣の男」を追う主人公、ローランド・デスチェインの姿が描かれています。

改変後はアロンソにより黒衣の男の打倒に成功し、以降は有徳の騎士のあるべき姿を説いています。ジェイクはローランドと行動を共にする少年です。

オリジナルの文書 改変
1997年の英語版“ハリー・ポッターと賢者の石”。 ハリーがホグワーツ魔法魔術学校に受け入れられたことを伝えるべく到着した半巨人のルビウス・ハグリッドを、騎馬で登場したアロンソが打ち倒す。アロンソはその後ハリーに、巨人、魔法使い、妖術師といった者は全て悪魔と取引しており、如何なる代償を払っても避けねばならないと弁明する。小説の残りは、アロンソの手本に感銘を受け、優しく高潔な保護者となったダーズリー一家の下で、辛抱強く悔悟の日々を送るハリーを描写している。

『ハリー・ポッターと賢者の石』はJ・K・ローリングが1997年に発表したファンタジー児童文学、ハリーポッターシリーズの第一作です。両親が死亡し、引き取られたダーズリー一家で邪魔者扱いされているハリー・ポッターが、ホグワーツ魔法魔術学校に入学して、苦難に立ち向かい、成長していくという物語です。

改変後は、ハリーと親交を深めるはずのルビウス・ハグリッドが倒されて、ハリーを邪険にしていたダーズリー一家が善良になり、ホグワーツに入学せずに終わります。

このようにいずれの作品も改変後は、アロンソの望むような騎士道精神溢れる物語に変化しています。

続けて補遺4028.2を見ていきます。

補遺4028.2: 発見と指定

SCP-4028の存在を示す証拠は2005年、それまで喪失文書と考えられていた手稿(“Historia del Huerfano”、または“孤児物語”)が発見された後に初めて財団職員の注目を集めました。マーティン・デ・レオン・カーデナス(マラガン出身の僧侶)によって1608年~1615年の間に執筆された“孤児物語”には、アロンソ・キハーノが脇役で登場していました。彼はこの物語がロマン騎士道の美徳に従っていないことを批判し、それらの美徳を称賛するのに数ページを費やし、フランシス・ドレイク卿に決闘を挑んでいます。(脚注3、愚か者めImbécil。)

補遺4028.2によると、“Historia del Huerfano”、または“孤児物語”という名の2005年に発見された手稿に、アロンソ・キハーノが脇役で登場していたことが財団職員の知るところとなり、SCP-4028の存在が判明したようです。

“孤児物語”はマーティン・デ・レオン・カーデナスによって1608年~1615年の間に執筆されたと書かれています。この作品は実際に存在しており、その内容はこの後に書かれていますが、当時のスペイン帝国の植民地であったアメリカ大陸に渡航した孤児の旅が描かれています。

ところが何故がアロンソ・キハーノが脇役で登場した上に、ロマン騎士道を賛美。フランシス・ドレイク卿に決闘を挑むというエピソードが挟まれています。アロンソ・キハーノが脇役で登場して、決闘を挑むという展開は通常では考えられず、財団が注目したとしても不思議ではありません。

フランシス・ドレイクは海賊からイングランドの海軍軍人となった人物で、史実では敵対するスペイン帝国領アメリカへ遠征を行っています。

内容は分かってきましたが、それはそれとして少し気になる箇所があります。脚注3の記述が報告書に相応しくない主観的な言葉となっています。これは一体なんなのでしょうか?

研究者たちは、アロンソ・キハーノの登場で“孤児物語”と“ドン・キホーテ”の間に生じる矛盾が異常現象を構成していたのか、両作品の著者が共同創作を行っていたかを断定できませんでした。この結果、空想科学部門(寓意的および/またはメタフィクション的な異常の調査・対策・収容目的で創設された架空の部門)が議論を収束させるために関与しました。

孤児物語におけるアロンソ・キハーノの記述が異常現象なのか、それとも両作品の著者が一種のシェアワールドとして共同で創作したのかが問題になり、空想科学部門(寓意的および/またはメタフィクション的な異常の調査・対策・収容目的で創設された架空の部門)が解決に向けて関与することになったようです。

空想科学部門については後述します。

激しい討論の後、“孤児物語”におけるアロンソ・キハーノの出演が異常か否かを断定するための、SCP-423(文章形式の物語に侵入し、その中を探索できる知的メタフィクション構造)の運用が承認されました。特記事項として、ピエール・メナール博士(“ドン・キホーテ”研究の権威ある有識者であり、当時の空想科学部門長)は、この計画に自らが反対の立場だったことをSCP-4028の記録に残すように求めました。(脚注4、寝ている犬は起こさないに限る。)

まず日誌に導入され、エージェント オハラによる手書きの注釈を介して任務の概要を知らされました。

財団はSCP-423を利用した調査を承認します。SCP-423はフレッドという名前のキャラクターで、上記のように登場人物がいる文書に侵入することが可能です。

ここも脚注が誰かの意見のようなものになっています。報告書を作成した人物の意見でしょうか?

SCP-423日誌より抜粋


日付: 2005/08/21
質問者: エージェント オハラ


やあ。

SCP-423、あなたはこれから孤児物語という17世紀スペインの手稿に侵入します。あなたには、そこに登場するキャラクターの1人が異常な手段で挿入されたか否かを判断してもらう必要があります。

オッケー。でもスペイン語は分からないよ。どういう本?

あなたのために英語に翻訳済です。グレナダ生まれの孤児が、アメリカ大陸のスペイン帝国領を旅するという内容です。

いいね。で、僕が調査するキャラクターっていうのは?

アロンソ・キハーノです。彼は終盤の、フランシス・ドレイク卿がプエルトリコ攻撃を敢行し、失敗するくだりで登場します。

オッケー。

待った。

アロンソ・キハーノ?

その通りです。

アロンソ・キハーノ。

はい。

ドン・キホーテ。

はい。

あのドン・キホーテ。

そうです。

僕にドン・キホーテを追えと。

何か問題でも?

いや こう、失礼な事は言いたくないけどさ、そいつが誰なのかホントにちゃんと分かってる?

君らは僕をどっかの三文ノワール映画の書き割りとか、驚天動地のメタ喰らいとかの追跡には派遣しないだろう。彼はラ・マンチャの男だよ。第四の壁を徹底的に破壊してる。彼が登場する物語の中では彼の動向を記した二次創作が出回ってるし、そもそも大元の物語にしたって存在しない説話の二次創作って触れ込みなんだ。要するに彼はメタフィクションの中で本を書いている。つまり、言葉通りの意味で — それは彼の本なんだ。

三文ノワール映画の書き割りは、フィクションを改変できると思われる謎のキャラクター、マーフィー・ロウが登場する、本作と同じ著者The Great Hippo氏による作品、SCP-3143、私立探偵マーフィー・ロゥ — 財団は二度ベルを鳴らすのことで、SCP-2747 – 下の如く、上も然りはフィクションに影響を与える異常現象です。

それで、できますか?

あーもう。まぁね。ただ、その — ややこしい事になっても僕を責めないでくれよ?

気を付けてくださいね。

エージェント・オハラがフレッドの存在する日誌に書き込むことでフレッドと会話しています。フレッドは調査対象がドン・キホーテのアロンソ・キハーノであると知り、乗り気ではない様子です。フィクションを改変する異常性があるメタフィクション的なオブジェクトを引き合いに出して、アロンソ・キハーノが並々ならぬメタフィクション的な存在であると語っています。

メタフィクションとは、自身がフィクションであることに言及するフィクションのことで、通常、フィクション内のキャラクターは、自身がフィクションであることを認識していないように行動しますが、メタフィクションでは、フィクション内のキャラクターが、自身がフィクションであることを認識している行動をとります。

例としては、アニメの登場人物による次回予告やアニメ化などの告知をするマンガのキャラクターなどが挙げられます。

フィクション内のキャラクターから見れば、作者や読者という高次の視点に立つことになるためメタ(超越する・高次の)フィクションと呼ばれます。

ドン・キホーテはメタフィクションの作品であることでも知られています。ドン・キホーテは前編が好評で後に後編が出版されていますが、後編では前編が作品内で出版されており、アロンソ・キハーノは前編を読んで彼らを知った人物により悪戯されています。

また、フレッドによる説明にあるように、ドン・キホーテの本来の作者はミゲル・デ・セルバンテスですが、作中ではシデ・ハメーテ・ベネンヘーリという架空の歴史家の記録を元に、セルバンテスが編纂したという設定となっています。

フレッドはアロンソ・キハーノがメタフィクションを体現するようなキャラクターであることを強く懸念しているようです。

続きを見てみます。

SCP-423日誌より抜粋


日付: 2005/08/23
質問者: エージェント オハラ


クソッ。

クソッ クソッ クソッ

クソッたれ。

SCP-423、何が起きたのですか?

彼を怒らせたらしい。思うに、あー — ねぇ、多分他の誰かに連絡して、深刻なメタナラティブ危機が迫ってるかもしれないって伝えるべきかもしれない。

説明してください。

まず、最初は僕を何かの邪悪な魔法使いだと思い込むだろ? そうじゃないって伝えた。彼がここで何をしているのか探るために送られてきた — 彼が間違った本の中にいるかどうかを判断しに来たとそう言ったんだ。財団っていう、彼みたいな異常なものを調査してる大きな組織から派遣されたと。そしたら彼は腰を下ろして、暫くの間、ずっと黙り込んでた。それで、えっと。

それで?

財団は騎士道精神の美徳に賛意を示すか、と僕に訊ねた。だから

彼に何と言ったのですか?

あのさ、君らが良い奴らじゃないって意味じゃないんだよ、時にはね — でも時々君らは、ほら、そんなに善でもないだろ? たまに少し悪い事もするし。複雑なんだよ、ね? だからそう伝えたんだ。「複雑です」。説明しようと頑張ったけど、こう、相手は複雑に「なる」タイプじゃないから。それで暫くしたら、彼はいきなり立ち上がって、ボロボロの剣を抜いて、何やかんや言って、そして僕は — 逃げた。できる限りの速さでひたすら逃げた。

彼は何と言いましたか?

他の人たちを呼んだほうがいい。皆を呼んで、彼が来るって知らせるべきだ。

フレッド。彼は何と言った?

君らはどうも巨人らしい、ってさ。

フレッドによってアロンソ・キハーノは財団を知りました。しかし、複雑な財団の事情までは分かるはずもなく、財団は巨人という騎士道物語における倒すべき敵として認定されてしまったようです。

この出来事から1週間後、SCP-4028は西洋文学の様々な作品に出現し始めました。以来、SCP-4028は異常存在に指定されています。(脚注5,警告はした。あの頑迷で愚かな老いぼれに、道理など通じはしない。)

このような経緯でSCP-4028は西洋文学の様々な作品に出現し始め、先ほど見てきたように作品を改変したようです。

またしても奇妙な脚注がありますね……、老いぼれとはアロンソ・キハーノのことでしょうか?

注記: あなたは現在、この文書の旧版(2006/02/14)を閲覧しています。より最近のリビジョンを閲覧する際はこちらをクリックしてください。

もしくは、詳細について当記事の現任の管理者(pmenard@scp.pataphysics)まで連絡してください。

冒頭部分で注記されていたようにこの文書はアーカイブ版であり、第2版が存在します。第2版を読んでみます。

特別収容プロトコル(2007/09/07)

特別収容プロトコル: 分析部門空想科学部門に利用可能なあらゆる資産はSCP-4028の収容および/または無力化に全力を挙げます。この目的のために異常存在と超常工学技術を応用することが承認されています。

財団運営Bot(I/O-SILVER)はIntSCPFNサーバーにおけるSCP-4028への言及を審査します。破損ファイルは隔離され、審査および修正のために当直のサーバー管理者に通達されます。

SCP-4028収容/無力化のための提言は全て、現在の空想科学部門 部門長、ピエール・メナール博士まで速やかに提出してください。(脚注1,煩わせるな。そんなものを読んで時間を無駄にしてはいられん。

こちらが第2版になります。分析部門と空想科学部門の資産をフル活用して、収容だけではなく無力化に全力を注いでいます。異常存在と超常工学技術を応用することが承認されており、本気度の高さが見て取れます。

分析部門(Department of Analytics)は、To Be Noir Not To BeというTaleにリンクしています。このTaleは第三法則という超常現象や奇跡論(科学的に魔法と呪術を研究する学問)の研究が身を結び、大いに発展した財団世界を舞台とするカノンの作品で、このTaleの分析部門(Taleでの訳は解析部門)はメタフィクション的異常に対処するために小説を監視しています。
空想科学部門は未翻訳であるRimple氏の著者ページ、Operation ÓverMetaにリンクしています。リンク先では、フレッドの協力のもとで架空の存在を現実世界に取り込み、超物語実体の機動部隊を設立しています。
空想科学部門(Pataphysics Department)とは、本作SCP-4028によると、寓意的および/またはメタフィクション的な異常の調査・対策・収容目的で創設された架空の部門と書かれており、フレッドのようなメタフィクション的な異常に対処する部門となっています。

Pataphysicsとは形而超学とも訳され、科学を風刺した空想上の学問という意味であるそうです(pataphysicsの意味 – goo辞書 英和和英)。おそらくメタフィクションという空想上の異常を科学的に扱うという意味合いで空想科学部門と名付けていると思われます。

架空の部門とあるのは、架空の存在であるメタフィクション的な異常に対処するために、相手と同じ土俵であるフィクション上の存在として部門を設けているようです。

最初の版の特別収容プロトコルでは、財団運営Botを利用して学術雑誌やネット上を監視していましたが、改訂版では財団運営Botを用いてIntSCPFNサーバーから、SCP-4028への言及を審査することが新たに定められています。

IntSCPFNサーバーとはおそらくSCP財団内部のサーバであると推測されますので、SCP-4028の移動先が一般社会である財団外部から内部に移ったようです。

ここでも奇妙な脚注があります。提言を提出されることを受けて、煩わしいと書き込んでいることから判断すると、脚注は空想科学部門 部門長、ピエール・メナール博士が書いていると思われます。しかし、私情を報告書に書いているのは不適切に思えます。

続けて説明ですが、説明の前半は最初と同じとなっています。しかし、「純朴な農夫(サンチョ・パンサ)を忠実な従士として旅に誘います。」には、脚注2として、「忠実にも程があるだろう、お前(señor?)」と書かれています。どういう意味でしょうか?

後半を見てみます。

SCP-4028は自らが占める文書と近接するデジタル/物理文書に内在し、その内容を改変することが可能な、知性あるメタフィクション構造です。近接関係は文書間で共有される人物、オブジェクト、設定によって決まります。SCP-4028は侵入した文書を、自らが抱くロマン騎士道の理想とより緊密に合致する内容に改変します。

2007年現在、SCP-4028はIntSCPFNサーバーに内在し、財団の文書を継続的に改変しています。

最初の版とは異なりSCP-4028がデジタルな文書にも入りこめることが判明したようです。やはりSCP-4028はIntSCPFNサーバーに入りこみ、財団の文書を改変していました。改変された文書の例が補遺に書かれています。

補遺4028.1: 改変された文書の例

SCP記事  逸脱
SCP-055 アロンソ・キハーノが騎馬で現れ、SCP-055の収容室に突進して外壁を破壊する。SCP-055は美しい姫であったことが明らかになり、彼の勇気と徳の高さゆえに呪いが解けたのだとアロンソに伝える。彼女はアロンソの善行に報いて結婚を申し出る。彼は丁重に辞退し、善行はそれ自らが報いであると語る。そしてまた、彼の心は麗しのドゥルシネーアに誓いを立てている。(脚注3、彼女の名はアルドンサ・ロレンソだ。姫はアロンソが無事に探求の旅を乗り越えることを願う(脚注4、何の“探求”だ? — 二人は抱擁し、袂を分かつ。

SCP-4028はSCP-055 – [正体不明]に侵入しています。SCP-055は情報伝達を阻害する反ミームの性質を持つオブジェクトでメタタイトル通り正体は不明なはずですが、ここではその正体が美しい姫であったことになっています。

呪いを解き姫を救いだす――騎士道物語として申し分のないエンディングですが、姫に別れを告げアロンソは探求の旅に出ます。

またしても脚注があります。脚注を書いたのはピエール・メナール博士であると思われるため、以降の脚注はピエール・メナール博士が書いたものとして見てみます。脚注3は最初の版でも書かれていた指摘で特に以前と変わりませんが、ピエール・メナール博士は探求とはなんのことなのかと疑問に思っているようです。

SCP記事  逸脱
SCP-076 アロンソが探求の旅を続ける中(脚注5、何の“探求”だ?)、SCP-076が不意打ちで彼を馬から叩き落とす。アロンソは立ち上がり、剣を抜いてSCP-076に会釈し、彼との名誉ある戦いを始める。戦いは半日にもわたり、両者は疲労を募らせてゆく。アロンソの剛胆さに心揺さぶられ、SCP-076は彼らが武術にかけて平等に並び立っていることを認める。(脚注6、頼む。お前も私も、平穏無事に元の鞘に戻ることなどできはしない。)二人は不本意ながらも互いに敬意を表し、袂を分かつ。

SCP-076 – “アベル”はSCP財団ではお馴染みの敵対的な人型実体ですが、ここではアロンソ・キハーノに襲いかかります。アロンソ・キハーノとの戦いは半日続き、両者はお互いを認め合い敬意を表してから別れます。

脚注では、「頼む。お前も私も、平穏無事に元の鞘に戻ることなどできはしない。」と書かれていますが、「私も」とはどういう意味でしょうか?ピエール・メナール博士とアロンソ・キハーノの間には何かつながりがあるのでしょうか?

SCP記事  逸脱
SCP-140 問題の本(“ダエーワ年代記”)は、“ドン・キホーテ”の作中で複数回言及される(そして著者セルバンテスが“ドン・キホーテ”の一次資料であると虚偽を述べている)非実在文書、“La Historia de Don Quixote de la Mancha”(“ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝”)に置き換えられている。記事では本の内容が簡潔に描写されている — 本はアロンソ・キハーノの数多くのロマンティックな冒険について詳述しており、彼が栄光のうちに引退して、忠実な従士と共に風車を探し求めながら余生を送るという形で終わりを迎えている。(脚注7、愚か者!(Imbécil!) そんな結末でないことは互いに承知しているはずだ。)

SCP-140 – 未完の年代記は現実の歴史に影響を与える異常性を有する年代記で、ダエーバイトと呼ばれる異常な古代文明について書かれていますが、ここではドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝に変化しています。

ドン・キホーテは架空の歴史家の記録を元に、セルバンテスが編纂したという設定であると書きましたが、その架空の文書記録のタイトルがドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝になります。本来のドン・キホーテの結末とは異なり、風車探しに出ています。

脚注では、「愚か者!」と書かれています。愚か者とはアロンソ・キハーノのことでしょうか。

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SCP-682 アロンソ・キハーノが巨人族から友を救い出すための旅を続けていると(脚注8、何だと?!、SCP-682が収容室から飛び出し、口から壁のごとくに炎を吐いてアロンソを襲う。アロンソは勇猛果敢に火中へ突進し、数多の火傷を負う。最終的に、アロンソはSCP-682を討伐する — しかし代償として、愛馬ロシナンテが命を落とす。(脚注9、こんな馬鹿げた事は止めろ。お前には何も成し遂げられん。引き返せ。

SCP財団ではお馴染みの危険なオブジェクトSCP-682 – 不死身の爬虫類ともアロンソ・キハーノは戦っています。アロンソ・キハーノは巨人族から友を救い出すための旅を続けていると書かれています。友人とは誰でしょうか?

数々の終了実験をくぐり抜けてきたSCP-682をアロンソは見事に討伐しますが、愛馬ロシナンテが命を落としてしまいました。ピエール・メナール博士はアロンソ・キハーノに引き返せと書いています。

SCP記事  逸脱
SCP-1013 徒歩で旅を続けるアロンソ・キハーノの前に、SCP-1013が収容室から飛び出し、その眼光で彼を麻痺させる。アロンソは自由になろうと奮闘するが、SCP-1013は打ち倒される前に、鎧の隙間越しにアロンソに噛み付く。骨化(軟組織が骨に変化する現象)プロセスが歯型から始まり、周辺の肉へと拡散する。弱められ、しかし屈服することなく、アロンソは危険を冒して進む。(脚注10、頑迷な老いぼれめ!(¡Cabra vieja y obstinada! )聞こえないのか? 引き返せ!)

SCP-1013 – コカトリスは鳥類の頭部を持つ小型の爬虫類の外見を持つ生物系オブジェクトで、目を合わせることで捕食対象を麻痺させ、噛み付くことで石灰化させて内部を捕食します。アロンソ・キハーノはSCP-1013は打ち倒しますが、噛み付かれてしまいダメージを負いました。

脚注では引き返すよう強く求めています。アルファベットはスペイン語のようです。

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SCP-2200 銀のごとき肌を持ち、光の剣を手にした剣士が、アロンソを切り捨てるべく前に踏み出す。(脚注11、逃げろ、馬鹿者!)勇気と栄誉を抱いて戦うものの、アロンソは一撃を受けるごとに身体が衰弱するのを感じる。(脚注12、逃げろ!剣士は幾つもの深手を負わせる。アロンソの血は傷口から滴る端から石化してゆく。残された膂力を以て、アロンソは遂に剣士を打ち倒す。(脚注13、何故こんな真似を続ける?! 私にはこれほどの目に見合う価値など無いぞ!) 松葉杖の代わりに剣を使い、彼は足を引き摺りながら前進する。(脚注13、私には何も無い!初めから何一つ在りはしなかった! 私の生涯は虚無だ!)傷は耐え難く、命取りだが、彼は歩み続ける。(脚注14、どうか、サンチョよ…)

SCP-2200 – ソウルベルグは複数のオブジェクトからなるSCPで、銀と銅の合金製の剣(SCP-2200-1)と、その剣が接合したヒト個体(SCP-2200-2)が登場します。SCP-2200-2は銀皮症の症状を呈しています。

アロンソ・キハーノはSCP-2200-2に襲われて深手を負いました。SCP-2200-2を打ち倒したものの歩くのがやっとという状態です。脚注ではアロンソ・キハーノを止めようとして必死に訴えています。最後にはサンチョよと書いています。

もしかしてSCP-4028はアロンソ・キハーノではない……?

SCP記事  逸脱
SCP-4028 息を吐くごとに苦闘しながら、アロンソ・キハーノは漸く、ピエール・メナール博士の前に立つ。そして、アロンソは到頭、その真の素性を明らかにする。サンチョ・パンサ、世にまたと無い勇敢にして高潔な騎士に仕える、忠実な家臣であり誇り高き従士。サンチョは主人の剣を返そうと試みる。彼は剣を持ち上げることができない。数多の傷が彼を圧倒する。彼は崩れ落ちる。しかし、地に倒れるその直前 —

アロンソ・キハーノはSCP-4028に辿り着き、ピエール・メナール博士の前に立ちました。SCP-4028はアロンソ・キハーノではなく、アロンソ・キハーノの従士である農夫、サンチョ・パンサであると判明します。サンチョは主人の剣を返そうと試みるも崩れ落ちて――

— ひとりの年老いた愚か者が彼を受け止め、そして

そして、私は

私は

ひとりの年老いた愚か者が彼を受け止めました。

注記: あなたは現在、この文書の旧版(2007/09/07)を閲覧しています。より最近のリビジョンを閲覧する際はこちらをクリックしてください。

もしくは、詳細についてこの異常存在の現任の収容監督官(pmenard@scp.pataphysics)まで連絡するか、あなたのIntSCPFNサーバー管理者までEメールを送ってください。

一体どうなったのでしょうか?最新版を開いてみます。

アイテム番号: SCP-4028

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 財団はペーパーカンパニーを通してSCP-4028に影響された地所を購入し、暫定サイト-4028に指定しています。財団職員2名が常時現地に留まり、地所内にある風力タービンの点検を毎日実施します。破損したタービンは速やかに修復します。

必要であれば、財団職員はカバーストーリーを流布し、破損は地元住民が行っているイタズラの結果であると説明します。

説明: SCP-4028は、ラ・マンチャ地方(スペイン中部の肥沃な乾燥台地)にある土地の一区画(面積およそ3km2)で起こる反復性現象です。影響領域内に建造された風車や風力タービンは、定期的に2体の検出不可能な襲撃者から攻撃を受け、動作不良に見舞われます。この現象を阻止ないし妨害する試みは、現在までのところ、無益であることが証明されています。

当該現象の裏にある原因や動機は、未だ確定的なものではありません。(脚注1、なに 巨人でないとも限るまいよ。

こちらが最新版です。今までのSCP-4028はメタフィクション構造でしたが、最新版ではラ・マンチャ地方の一区画で風車や風力タービンの動作不良が繰り返し発生するという反復性現象がSCP-4028として指定されています。

定期的に2体の検出不可能な襲撃者から攻撃を受けていると書かれていますが、原因や動機は不明となっています。そして最後には脚注があります。

「なに… 巨人でないとも限るまいよ。」これは一体……?

SCP-4028とは?

SCP-4028の正体はなんだったのでしょうか?

第2版の最後のSCP-4028の項目ではアロンソ・キハーノではなくサンチョ・パンサであると書かれており、最終的にはピエール・メナール博士の前に立ち、主人の剣を返そうと試みています。ピエール・メナール博士が最後の脚注で「サンチョよ…」と書いていることから、SCP-4028がサンチョ・パンサであることは間違いなさそうです。

また最後にSCP-4028が対面したのが、ピエール・メナール博士であることから、サンチョ・パンサが主人の剣を返そうとした相手はピエール・メナール博士であると考えられます。

ではなぜSCP-4028ことサンチョ・パンサはピエール・メナール博士に主人の剣を返そうとしたのでしょうか?

素直に考えれば剣を返す相手はアロンソ・キハーノである筈です。そう考えれば自ずと答えが浮かび上がります。

ピエール・メナール博士こそがドン・キホーテの主人公であるアロンソ・キハーノだったのです。

そう考えると脚注で書かれていた内容が明確になります。脚注の内容が知り合いに対するコメントであるかのような記述になっていましたが、これはピエール・メナール博士ことアロンソ・キハーノが自身がよく知る、彼の従士であったサンチョ・パンサに向けた発言だったのです。

脚注を確認してみます。

1. ドゥルシネーアの本名はアルドンサ・ロレンソ。彼女は百姓娘であり、アロンソの存在さえも知らなかった。
2. 年老いた、辛抱強い馬。

こちらはただの補足に見えますが、そうではなくアロンソ・キハーノ自身の体験から事実を述べていたのだと推測されます。

3. 愚か者め。(Imbécil

Imbecilはスペイン語です。アロンソ・キハーノがスペイン人であることと一致します。

第2版の脚注から考えると、ピエール・メナール博士はおそらく最初に孤児物語にSCP-4028がいる疑いが持たれた時点で、SCP-4028がサンチョ・パンサであることに気付いていたと思われます。

以下の脚注はアロンソ・キハーノに対してコメントしているように見えますが、実はサンチョ・パンサのことを評して言っていたと解釈できます。

4. 寝ている犬は起こさないに限る。 5. 警告はした。あの頑迷で愚かな老いぼれに、道理など通じはしない。

SCP-4028がサンチョ・パンサであることに気付いていたため、ピエール・メナール博士は、「寝ている犬は起こさないに限る」と書き、フレッドによる調査に反対したと考えられます。脚注5の「警告した」とは、調査に反対したことを指しているようです。あの・・という書き方から誰か特定の人物を頭に浮かべているということが分かります。

ピエール・メナール博士がSCP-4028の正体に気付いた理由は分かりませんが、ピエール・メナール博士がアロンソ・キハーノであるなら、SCP-4028がアロンソ・キハーノではないことは自明であり、アロンソ・キハーノを騙り、その行動を模倣するようなキャラクターとしてサンチョ・パンサを疑ったということはあり得ると思われます。

以下の脚注のようなコメントもサンチョ・パンサのことを言っていたとすれば、理解できます。第2版の説明でサンチョ・パンサについて記述していた箇所にあった脚注2では

2. 忠実にも程があるだろう、お前(señor?)

と書かれており、サンチョ・パンサへの言及であることが分かります。

6. 頼む。お前も私も、平穏無事に元の鞘に戻ることなどできはしない。
7. 愚か者!(¡Imbécil! )そんな結末でないことは互いに承知しているはずだ。

ここの脚注は何のことでしょうか?こちらはドン・キホーテの結末に対する言及のようです。ドン・キホーテの結末は故郷に戻り熱病に倒れたアロンソが、正気を取り戻して、サンチョに今までの行動を詫びて亡くなります。

ピエール・メナール博士ことアロンソ・キハーノは悲しい結末は覆せないと言っているようです。しかし、SCP-4028ことサンチョ・パンサの考えはそうではないようです。

SCP-4028はSCP-682に侵入した際に「巨人族から友を救い出すための旅」を続けていると記述されていました。初版の最後では、SCP-4028はフレッドに対して「君らはどうも巨人らしい」と述べていることから、巨人とは財団のことであり、SCP-4028は「巨人族(財団)から友(アロンソ・キハーノ)を救い出すための旅」をしているのだと推測されます。

満身創痍になりながらも歩み続けるサンチョ・パンサに対して、その目的を知ったピエール・メナール博士ことアロンソ・キハーノはサンチョの身を案じて以下の脚注のように旅をやめるように訴えたと考えられます。

8.何だと?!
9. こんな馬鹿げた事は止めろ。お前には何も成し遂げられん。引き返せ。
10. 頑迷な老いぼれめ!(¡Cabra vieja y obstinada! )聞こえないのか? 引き返せ!
11. 逃げろ、馬鹿者!
12. 逃げろ!

愛馬ロシナンテを失い、それでも歩みを止めないサンチョに対して

11. 逃げろ、馬鹿者!
12. 逃げろ!
13. 何故こんな真似を続ける?! 私にはこれほどの目に見合う価値など無いぞ!

ともうやめるようにと訴え続けています。脚注では

14. 私には何も無い!初めから何一つ在りはしなかった! 私の生涯は虚無だ!

と書かれていました。これはアロンソ・キハーノが架空のキャラクターであり、また、ドン・キホーテの作中でも、何もなすことができなかったことを述べているように思われます。

これまで見てきたようにピエール・メナール博士はアロンソ・キハーノであると考えられます。しかしアロンソ・キハーノは架空のキャラクターであり、普通に考えればフィクションから抜け出して財団に辿り着けるようには思えません。

ですがここでフレッドの言っていたことを思い出してください。ドン・キホーテことアロンソ・キハーノは第四の壁を徹底的に破壊しています。ドン・キホーテ自体がメタフィクションの作品であるとすれば、作品を改編する異常性を持つSCP-4028ことサンチョ・パンサ同様に、アロンソ・キハーノも知性あるメタフィクション構造であったと考えられます。

ピエール・メナール博士がアロンソ・キハーノであるなら、「“ドン・キホーテ”研究の権威ある有識者」であることも頷けます。自分自身のことなのですから、ドン・キホーテを一番よく理解している訳です。

そもそもピエール・メナールという名前は、ドン・キホーテを題材にしたホルヘ・ルイス・ボルヘスによる短編『『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール』と同じ名前であり、ピエール・メナール博士がドン・キホーテのアロンソ・キハーノであることを仄めかしています。

アロンソ・キハーノがどのような経緯で財団に辿り着けたのかは不明ですが、ドン・キホーテが悲しい結末を迎え、失意の中で過ごしていたアロンソ・キハーノが、過去の自分を捨ててピエール・メナール博士財団に身を寄せたのではないかと思われます。

そもそもピエール・メナール博士は架空の部門である空想科学部門の部門長であるため、実際には存在しない架空のキャラクターであると考えられます。注記にはメールアドレスが書かれているため、誰かがピエール・メナール博士の役をやっているのか、それともただの架空の設定なのかはわかりませんが、いずれにせよ実在しないフィクションのキャラクターであるはずです。

しかしアロンソ・キハーノがメタフィクション的な異常存在であるなら、ピエール・メナール博士というフィクションのキャラクターに成り代わることも可能であるように思われます。

アロンソ・キハーノはピエール・メナール博士として財団に身を寄せ、孤児物語に入り込んでいたサンチョ・パンサは、フレッドを通して財団を知り、打ち沈んだアロンソ・キハーノを救うために過去の作品から現代の作品へと移動してきたのだと思われます。改変された作品の発行日が徐々に現代に近づいているのはこのためだと思われます。

脚注のコメントが財団らしくないのは、メタフィクション構造であるアロンソ・キハーノが報告書を作成、または改変しているからだと思われます。

サンチョ・パンサは財団のSCP報告書に入り込み異常存在と戦うという苦難の道を歩み、シリーズⅠSCPからシリーズⅡSCP、シリーズⅢSCPと進み、見事にSCP-4028のアロンソ・キハーノのもとへ辿り着いたのです。

最後の報告書

それでは最後の報告書の意味するところはなんでしょうか?これは最終的にピエール・メナール博士ことアロンソ・キハーノが、サンチョ・パンサから剣を受け取り、再び共に騎士道物語の旅に出たことを表していると考えられます。

2人は風車に戦いを挑み、結果風車が故障しているのです。

1. なに 巨人でないとも限るまいよ。

こちらはアロンソ・キハーノが、かつてとは異なり、正気を保ちながらも巨人(風車)に挑もうとしていることを表していると思われます。実は報告書の文末には反転すると読める文章が隠されていました。

“¡Non fuyades, cobardes y viles criaturas, esos dos caballeros son los que te van a atacar!”
“逃がしはせんぞ、卑怯非道の鬼畜ども! お主らに相対するは、この二人の騎士であると知れ!”

2人は冒険の旅を続けています。この結末はSCP-140への改変後の内容と同一で、今度はハッピーエンドを迎えたといえるのではないかと思われます。これは財団にとってもハッピーエンドであり、より一般社会への影響が少ない異常として収容可能となりました。

最後に本作のメタタイトルについてです。本作のメタタイトルはドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝となっていましたが、これは改変後のSCP-140のタイトルや内容と一致しており、望んだ結末を迎えたことを表しているように思えます。

本はアロンソ・キハーノの数多くのロマンティックな冒険について詳述しており、彼が栄光のうちに引退して、忠実な従士と共に風車を探し求めながら余生を送るという形で終わりを迎えている。

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おわりに

SCP-4028 – ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ伝でした。結果的には見事に改変されてしまった形ですが、清々しい結末でした。最後までお読み頂きありがとうございました!

 

原著者 The Great Hippo
http://www.scp-wiki.net/scp-4028
作成年 2018
翻訳者 C-Dives
http://scp-jp.wikidot.com/scp-4028
作成年 2018
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