短い内容ながら一読では理解が困難なSCP作品、SCP-4946 – あなた は “赤痢” で 死にましたの内容紹介と解説をしてみました。
※2018/11/27 説明の追加と修正をしました。
SCP-4946とは
SCP-4946は、赤痢による死亡者届出件数にて観測される確率論的異常で、オブジェクトクラスはKeter Thaumielとなっています。
赤痢(赤痢 – Wikipedia)は腹痛、下痢、血便、悪寒を伴う発熱等を引き起こす赤痢菌による感染症です。日本では毎年、1,000人前後が感染し数人の死者を出していますが、栄養不良および衛生環境の悪い発展途上国では多くの死者が出ており、大きな問題となっています。日本でも戦後しばらくは感染者数が10万人を超え、2万人近くが亡くなっていたそうです。
http://jsbac.org/youkoso/shigella.html
によると、発展途上国では乳幼児を中心に年間100万人近くが死亡しています。
特別収容プロトコル
特別収容プロトコルは以下のようになっています。
特別収容プロトコル:
SCP-4946は未収容です。財団フロント企業のサニー・スカイズ分析は、赤痢による日間死者数の集計並びに広報を担当します。財団は実際の死亡者数にかかわらず、死亡者数を2025/06/06以降の日数をnとした際のフィボナッチ数列におけるn番目の値として報告しなければなりません。第三者による報告書によって検証可能な赤痢による死亡例が提示された場合、その報告書は総数に加算され、SCP-4946はNeutralizedとして再分類されます。
SCP-4946より引用
冒頭に書かれているSCP-4946は未収容ですという文章には打ち消し線が引かれています。このことからSCP-4946は現在は収容されていることが分かります。
収容プロトコルで定められていることは、以下の2点です。
- 財団フロント企業のサニー・スカイズ分析は、赤痢による日毎の死者数の集計並びに広報を行ない、実際の死亡者数が何人であるかに関わらす、死亡者数を2025/06/06以降の日数をnとした際のフィボナッチ数列におけるn番目の値として報告しなければならない。
- 第三者による報告書によって検証可能な赤痢による死亡例が提示された場合、その報告書は総数に加算し、SCP-4946はNeutralizedとして再分類する。
1点目は、財団フロント企業により、2025/06/06以降の日数をnとした際のフィボナッチ数列におけるn番目の値を1日あたりの死亡者数として広報を行なうというものです。
フィボナッチ数列(フィボナッチ数 – Wikipedia)とは、0, 1から始まり(1から始まると説明されることもあります。)、直前の数字2つの和が次の数字となる有名な数列で、0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, ……と増えていきます。フィボナッチ数は自然界に多く現れ、花びらや葉の数、などがフィボナッチ数となっています。特にヒマワリの種の配列がフィボナッチ数の例としてよく用いられます。
財団フロント企業は赤痢による死者数を実際の死者数に関わらず
2025/06/06 → 0と報告
2025/06/07 → 1と報告
2025/06/08 → 1と報告
2025/06/09 → 2と報告
しなければならないわけです。
2点目は、財団フロント企業以外の第三者による報告書に立証可能な赤痢による死亡例が公表された場合に、その報告書の死亡者数を死亡者数の総数に加えて、Neutralizedとして再分類することが定められています。
理由はよく分かりませんが、第三者による報告書に立証可能な赤痢による死亡例が公表された場合、異常性が失われたと判断できるようです。
それでは説明をみてみます。
説明
SCP-4946は、赤痢による死亡者届出件数にて観測される確率論的異常です。
2025/06/06より、報告される1日あたりの赤痢による合計死亡者数は、2025/06/06以降の日数をnとした場合のフィボナッチ数列におけるn番目の値となっています。これらの死亡者についての研究の結果、標準的な統計的誤差を別とすれば、現行の収容プロトコルが制定される以前の全ての死亡事例は上記の点を除いて非異常の赤痢によるものであることが判明しています。
SCP-4946が赤痢による実際の死亡者数を表すものではないことは留意すべきです。SCP-4946は単に公表された報告値の総計を表します。
現行の収容プロトコルは2025/07/02に開発され、施行されました。結果として、赤痢による実際の人間の死亡は根絶されたものと思われます。致命的な赤痢症例の消滅について一般市民を誤誘導させるため、財団諜報部ƟU-4947が割り当てられています。
SCP-4946より引用
非常に短い内容ですが、どういうことなのか分かりにくいですね……。最初の文によるとSCP-4946は、確率論的異常であると書かれています。確率論的異常であるとはどういう意味なのかこの時点では不明ですが、次の文でそれがどんな意味か少し明らかになります。
SCP-4946は、報告される1日あたりの赤痢による総死亡者数が2025/06/06以降の日数をnとした場合のフィボナッチ数列におけるn番目の値と同じになると書かれています。文の流れから考えるとこれが確率論的異常であるということになります。
なぜこれが確率論的異常なのかというと、2025/06/06以降の報告された1日あたりの赤痢による総死亡者数がフィボナッチ数列と同数ということは、赤痢による1日あたりの平均死亡者数から大幅にかけ離れた数値が報告されたことになります。
1年間の赤痢による死者数を100万として1年間の日数、365で割って1日あたりの平均死亡者数を求めると約2740人が平均死亡者数となります。
06/06から06/27までの報告された赤痢による死者数を表にすると以下のようになります。
日付 | 06/06 | 06/07 | 06/08 | 06/09 | 06/10 | 06/11 | 06/12 | 06/13 | 06/14 | 06/15 | 06/16 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
報告された赤痢による死者数(フィボナッチ数) | 0 | 1 | 1 | 2 | 3 | 5 | 8 | 13 | 21 | 34 | 55 |
日付 | 06/17 | 06/18 | 06/19 | 06/20 | 06/21 | 06/22 | 06/23 | 06/24 | 06/25 | 06/26 | 06/27 |
報告された赤痢による死者数(フィボナッチ数) | 89 | 144 | 233 | 377 | 610 | 987 | 1597 | 2584 | 4181 | 6765 | 10946 |
平均して約2740人だった1日あたりの死亡者数が、2025/06/06から2025/6/22にかけて1~3桁台の数値となります。平均と比較すれば1日あたりの死亡者数がこれほど少なくなることは、恐ろしく低い確率となります。
これは例えるなら、1ヶ月に平均して約5人の生徒が体調不良等で欠席する全校生徒800名の学校で、1ヶ月の間に300人が偶然欠席するようなものです。
さらに日が経てば、平均死亡者数を遙かに上回り、さらに起こり得ない確率となるでしょう。しかし、ほぼ有り得ない確率の現象が起き続けている。これが確率論的異常ということです。
ここでひとつ疑問が浮かびます。報告された赤痢による死者数は、実際に赤痢による死者数と同じ数なのでしょうか?
その答えは、次の文章です。
これらの死亡者についての研究の結果、標準的な統計的誤差を別とすれば、現行の収容プロトコルが制定される以前の全ての死亡事例は上記の点を除いて非異常の赤痢によるものであることが判明しています。
こちらの説明の文章によると、現行の収容プロトコルが制定された2025/07/02以前より前に実際に起きた全ての報告された死者数は、誤差があるものの実際に死亡した死者数であり、全ての死亡事例は、フィボナッチ数列に従うことを除けば、異常性のない通常の赤痢によるものだったということです。2025/07/02という日付は、後半に出てくる説明の中で、現行の収容プロトコルは2025/07/02に開発され、施行されたと書かれています。
報告された死者数が異常性のない通常の赤痢によるものだったということは、死因に関してはなんらかの異常性はなかったということになります。これは本来の赤痢の感染方法で感染した人たちの中から出た死者数が、偶然にも必ずフィボナッチ数列を満たすようになったと解釈できます。つまり、SCP-4946の異常は何か異常な原因によって引き起こされたものではなく、確率的に異常な結果に自然になってしまうという現象であるといえます。
ところで、現行の収容プロトコルが施行された2025/07/02以降はどうなったのでしょうか?
財団が死亡者数を2025/06/06以降の日数をnとした際のフィボナッチ数列におけるn番目の値として報告し始めた結果、なんと赤痢による実際の人間の死亡は根絶されてしまいます。
これは一体何故でしょうか?その答えは以下に書かれています。
SCP-4946が赤痢による実際の死亡者数を表すものではないことは留意すべきです。SCP-4946は単に公表された報告値の総計を表します。
SCP-4946はあくまでも公表された報告値の総計ということです。報告値の総計がフィボナッチ数列に準ずるように、報告される1日あたりの赤痢による死亡者の発生数が変化すると考えられます。
したがって報告値の総計さえ偽造できれば、SCP-4946の異常性を逆手にとり赤痢の1日あたりの死亡者を0にすることができるのです。
財団がフィボナッチ数列に準じて死者数を虚偽報告すれば、その報告の死者数でフィボナッチ数列を満たせます。この時、財団以外の組織が公表する死者数がそこに加われば、フィボナッチ数列を満たさなくなりますが、SCP-4946の異常性により報告値の総計がフィボナッチ数列に準ずるように赤痢による死亡者の発生数が変化するため、財団以外の組織が公表する死者数と実際の死者数が0となります。
なぜ赤痢による死亡が根絶されたのか
もう少し具体的に順を追って説明します。
2025/06/06の時点から報告される1日あたりの赤痢による死者数の総計はSCP-4946の異常性によりフィボナッチ数列に準ずるようになります。報告していた団体がいくつあったのかは不明ですが、いくつかの団体が出した報告の総計が異常な値になります。ここでは仮にAとBの2団体が報告していたとします。
財団はこの異常現象を発見し、研究と調査を開始します。するとこれは数値だけが改ざんされた訳ではなく、非異常性の赤痢により、実際の死者数がその人数になっていることが確認されます。おそらく財団は研究の末に、まず発生しないほど低い確率の事象が偶然起きるという、確率的に異常な現象ということに気付いたと思われます。
ここで問題となるのは、赤痢による1日あたりの死亡者の発生数の変化が何を基準として起きているのかです。報告書上の死者数がフィボナッチ数列を満たすように実際の死者数が変化したのか、それとも実際の死者数がフィボナッチ数列を満たすように変化した結果、報告された死者数が変化したのかがわかりません。
財団はこれを確かめるために次のようなことをしたのではないでしょうか。赤痢を報告していた団体以外の組織により虚偽の報告をしたのです。
具体的には7日目は総計で13人が報告されるはずですが、このとき財団のフロント企業が他団体より前に13人を虚偽報告したとします。するとその13人でフィボナッチ数列を満たしているので、総計が13になるためには他団体の報告する死者数が0でなければなりません。
表にすればこうなります。
日付 | 2025/6/11 | 2025/6/12 | 2025/6/13 |
A団体の報告 | 1 | 3 | 0 |
B団体の報告 | 4 | 5 | 0 |
財団フロントの報告(虚偽) |
報告せず | 報告せず | 13(F7と同じ!) |
報告された死者数の総計 | 5 | 8 | 13 |
n(2025/6/6からの日数) | 5 | 6 | 7 |
フィボナッチ数列(Fn) | F5=5(2+3) | F6=8(3+5) | F7=13(5+8) |
実際の死者数の総計 | 5 | 8 | ? |
実際の死者数の総計はどうなるでしょうか?結果は以下の2通りが考えられます。
- 虚偽の報告と同じ人数の13人が赤痢で死亡し、他団体の報告する死者数が0となる
- 誰も赤痢で死亡せず、他団体の報告する死者数が0となる
もしSCP-4946が実際の死者数の総計を表すのであれば、結果は前者となります。しかし赤痢による実際の人間の死亡は根絶されたと書かれていますので、結果は後者になったと考えられます。
こうして、SCP-4946が報告される死者数の総計を表し、それを満たすように赤痢による1日あたりの死亡者の発生数が変化するということが判明しました。
SCP-4946のまとめ
SCP-4946をまとめてます。
SCP-4946は報告される死者数の総計がフィボナッチ数列を満たすように赤痢による1日あたりの死亡者の発生数が変化するという異常現象。これはなんらかの異常によるものではなく、まず発生しないほど低い確率の事象が偶然起きている。
財団は収容プロトコルとして、財団フロント企業により報告される死者数の総計がフィボナッチ数列を満たすように虚偽報告を行なっている。死亡者の発生数の変化は、報告される死者数の総計が基準となるため、財団が虚偽報告すれば、その時点でフィボナッチ数列を満たすことができる。もし財団以外による報告で死者数が1人でも出ればフィボナッチ数列を満たさなくなるため、SCP-4946の異常性により死者数の総計がフィボナッチ数列を満たすように、死者数が変化し、財団フロント以外による報告における死者数=実際の死者数が0となる。
こうして赤痢による実際の死者は根絶されたのでした。
報告される死者数は日々増えていきますが、赤痢による実際の人間の死亡は根絶されました。しかし、発展途上国の医療機関等に赤痢の死者数が0になったことに気付く者が現れる可能性があります。最後の文章ではそれを防ぐために財団諜報部ƟU-4947が割り当てられたと書かれています。
説明の内容は以上です。
Thaumielの理由
ここで、少し気になる点があります。異常が始まった2025/06/06から現行の収容プロトコルが開発・施行された2025/07/02までに一体何人が死亡したのでしょうか?
2025/07/02は0人となるため、2025/06/06から2025/07/01までの日数で計算すると、30-6+1でn=25です。フィボナッチ数 – 高精度計算サイトによると、フィボナッチ数列はn=25で75,025です。
Excelで計算したところ、合計で196417人が死亡していました。これは年間死亡者数の20%に当たります。収容できず被害も大きいため、オブジェクトクラスがKeterだったわけです。増え続ける死者数により最終的には人類が滅亡する恐れがありました。
しかし現行の収容プロトコルが開発・施行された結果、赤痢による実際の人間の死亡は根絶され、Thaumielとなったようです。通常Thaumielは異常性やKクラスシナリオの無効化が可能なオブジェクトに付与されるため、やや変則的な運用のように思えますが、SCP-4946による異常性及びKクラスシナリオの可能性を無効化していると考えられます。
収容プロトコルに話を戻すともしここで第三者による報告書によって検証可能な赤痢による死亡例が提示された場合は、死者数の総計がフィボナッチ数列からはずれたことになりSCP-4946の異常性が消滅したと考えられます。
したがって現行の収容プロトコルでは、第三者による報告書によって検証可能な赤痢による死亡例が提示された場合、その報告書は総数に加算し(財団の報告は虚偽のためその報告書の死者数が本来の総数となります)、SCP-4946はNeutralizedとして再分類するとなっていたのだと思われます。
SCP-4946のその後
めでたしめでたしと言いたいところですが、現行の収容プロトコルに従って報告される赤痢の死者数はフィボナッチ数列に準じて増え続けていきます。異常性が継続するとすれば、いずれは報告される赤痢による1日の総死者数が世界人口を突破します。
世界人口 – Wikipediaによると、世界人口は2025年に約81億人になると予測されています。フィボナッチ数列はn=50で約126億(12,586,269,025)となるため、計算すると
2025年7月26日に報告される1日あたりの赤痢による死者数が世界人口を突破します。
財団は一体どんな方法でこれをごまかすのでしょうか……?
ところで、報告される赤痢の死者数が世界人口を突破すると、報告書上は全人類が死んだことになります。したがって必然的にSCP-4946の読者も報告書上では赤痢で死亡したことになります。
つまりはこう宣告されたのと同じではないでしょうか。
あなた は “赤痢” で 死にました
おわりに
いかがでしたでしょうか?SCP-4946でした。短い内容ながら面白い作品でした。
ちなみに、あなた は “赤痢” で 死にましたというメタタイトルには元ネタがあります。それはアメリカの西部開拓を題材にしたコンピュータゲーム、オレゴン・トレイル (ゲーム) – Wikipediaに出てくるゲームオーバーのフレーズ、
“You have died of dysentery”(あなたは赤痢で死にました)でした。
http://ja.scp-wiki.net/scp-4946
コメント
短いながらよく考えさせる知的なSCPですね!
解説もわかりやすく丁寧でありがとうございます!
こういったマイナー?な良SCPはどこで見つけてくるんですか?
コメントありがとうございます!
こちらのSCPを知ったきっかけは、ツイッターのタイムラインでたまたま流れてきた
このSCPを翻訳された方による「短すぎて何を言っているのかがさっぱり」というツイートでした。
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