1,000度を超える炎に包まれた恐ろしい人型存在が登場するSCP作品、SCP-504-JP – 一生のお願いの内容整理と考察をしてみました。
SCP-504-JPとは
SCP-504-JPは異常な性質を持った、女性であるように見える人型実体。その顔は著しく損傷し、両目と口部以外の顔の部位は存在しない。オブジェクトクラスはEuclid。
財団により行われた標準的知能テストを含む9項目の検査の結果、SCP-504-JPの皮膚感覚を除く全ての感覚及び理性が無いことか示唆されている。
顔が著しく損傷した理性のない人型存在がSCP-504-JPと指定されています。
SCP-504-JPの全身は、常に摂氏1,000度を超える火によって包まれており、火は時間経過とともに火勢を増し、1日につき火面長(炎の外周の長さ)は約300m増大することが確認されている。火面長増大の限界値の確認実験については現在保留されている。
放っておくと危険ですね……。
SCP-504-JPは平常時のたうち回る、呻き声を上げるなどの行為を繰り返しているため、SCP-504-JPは自身の異常性により常に痛覚を刺激されていると考えられている。しかしながらSCP-504-JPの熱傷の深度は確認されている限りでは深達性II度までであり、また収容後に行われた耐久実験に於いても人体にとって致命的な箇所への損傷が3-42時間程度で治癒することが確認されている。このことからSCP-504-JPは低-中程度の再生能力或いは不死性を保持していると推考されている。
炎に焼かれ苦しみながらも死ぬことはできないという悲惨な状況です。
SCP-504-JPの異常性は唯一、小林██氏の関連物品(衣類や所持品、写真、排泄物)をSCP-504-JPの存在する半径10m以内に持ち込むことにより封じ込めができる。
小林氏の関連物品を範囲内に持ち込むと、SCP-504-JPは不明なプロセスでそれを認識し、入手しようとする。この動作を妨害するものに対し、SCP-504-JPは極めて攻撃的になる。
小林氏の関連物品を入手するとSCP-504-JPの異常性の発露は自身の皮膚を覆う程度に留まる。しかしながら、SCP-504-JPは小林氏の関連物品を肌身離さずにいるため、大抵の場合極めて短い時間で小林氏の関連物品は焼失することとなる。
SCP-504-JPが大半の感覚を失いながらも小林氏の関連物品を感知するプロセスは不明で、一部の研究者は未知の感覚器官を保持しているとの仮説を立てている。
小林氏の関連物品への激しい執着があるようですが、それらはすぐに焼失するため満たされることはないようです。一体その正体は何なのでしょうか?
次に特別収容プロトコルを見てみます。
特別収容プロトコル
特別収容プロトコルは以下のようになっている。
小林氏邸宅跡を覆うように仮設サイト-81██が建設されます。SCP-504-JPに対する給餌は必要ありませんが、1ヶ月に1度、耐火性の高い金属にプリントされた画像データ504-JP(小林██氏の写真)が与えられます。SCP-504-JPが収容に対し著しい抵抗を示した場合、機動部隊により一時的に活動を停止させて下さい。
金属にプリントされた画像がSCP-504-JPの収容に用いられているようです。次に補遺のインタビュー記録を見てみます。
補遺1: インタビュー記録SCP-504-JP
インタビューログ
日付: 2016/07/██
対象: 小林██氏
質問者: エージェント・荒川
注記: 当インタビューは火傷により入院中の小林氏に対し「警察による尋問」という名目で行われた。
[重要度が低いため割愛]
エージェント・荒川: つまり貴方は自宅に自分で火を点けた、ということですね?
小林氏: ああそうだよ。やったのは俺だ。だがな、これは正当防衛っつーか不可抗力っつーか……兎に角、別に俺だって理由なく自分の住んでる家燃やしたりしねえよ。
エージェント・荒川: 何が起きたのかお聞かせ願えますか?
小林氏: [沈黙]
エージェント・荒川: どうかしましたか?
小林氏: なああんた、本当に俺の言うことを信じるか?
エージェント・荒川: ええ、約束しましょう。
小林氏: [溜息]本当だな……。あの日、俺は丁度病院から退院したところだったんだ。自転車乗っててトラックに突っ込まれてな、一時は呼吸もしていなかったらしくてよ、医者には後遺症もなく生きてるのは奇跡だって言われたな。
小林氏: そんなことがあって家に1ヶ月振りに帰ったんだが、居間に入ると知らない女が床に全身を擦りつけてたんだよ。そいつと目が合った時のことは今も忘れられねえ。顔がぐちゃぐちゃで、それでいて焦点の合わない目だけがギラギラ光ってた。
小林氏: 怖くなった俺は取り敢えず家から出て警察を呼ぼうとしたんだが、急にその化け物が俺目掛けて突っ込んできて俺はそのまま押し倒された。その時は今度こそ死を覚悟したね。化け物は矢鱈力が強くて力一杯殴っても声こそ上げてもビクともしねえ。
小林氏: このままだと殺されるって思った俺は、隙を見て咄嗟にポケットに入っていたライターを取り出して奴に火を点けた。自分も燃えるかもしれねえって思ったが、少なくとも化け物に襲われて死ぬよりはマシな死に方が出来るって思ったね。
小林氏: 火が奴の体に触れると奴が怯んで俺から少し離れた。火ならこの状況をどうにか出来ると思った俺は奴に灯油をぶち撒けて燃やした。そんで俺は消防を呼んで、後はあんたらの知る通りだ。……なあ、俺の言うことが信じられるか?
エージェント・荒川: ええ。というのも、貴方の自宅の燃え跡から貴方の言う化け物が生きた状態で見つかりましたので。
小林氏: クソ、あいつ生きてるのかよ……。あんな化け物とまた遭遇するかもって考えると、ブタ箱の中の方がまだマシってもんだな。
[以下重要度が低いため割愛]
終了報告書: 小林氏の供述により、SCP-504-JPの火に関する異常性は後天的に獲得されたものと推測されます。また、何故小林氏の邸宅にSCP-504-JPが存在していたかについては不明です。
SCP-504-JPに襲われた男性、小林██氏へのインタビューでした。SCP-504-JPに火を付けたのはこの小林氏で、自身も火傷を負ったようですが、SCP-504-JPの正体や小林氏に執着していた理由はまだよく分かりません。
補遺2も見てみましょう。
補遺2: 全焼した小林氏の邸宅跡から燃え残った以下の物品が発見された。
- シャネルの鞄、財布など数点
- 『ホノリウスの誓いの書』の写本
- 鶏、蛇などの複数の小動物の死骸
- 女性用下着
- ファンデーション
小林氏は1人暮らしであり、これらの物品について見覚えはないと供述している。
女性用の物品と小動物の死骸、そして『ホノリウスの誓いの書』の写本……。これらは果たして何なのでしょうか?
考察
それでは考察に入ります。まずは、小林氏宅で発見された物品の中にあった謎の書物、『ホノリウスの誓いの書』が何なのかを調べてみました。
『ホノリウスの誓いの書』
ホノリウスの誓いの書 – Wikipediaによるとこの書物は、ギリシャ数学者、エウクレイデス(ユークリッド)の息子、テーベのホノリウスという人物によって書かれたとされている中世の魔術書のようです。
その内容はWikipediaによると、以下のようなものでした。
93の章があり、煉獄から自分の魂を救い出す方法から、盗人を捕らえたり財宝を発見する方法まで、多岐にわたる問題を扱っている。霊を強請し命令する方法やその他の魔術作業についての多くの教示、そして天界に何があるのかといった気宇壮大な情報についても記されている。
これ以上の詳しい内容はWikipediaには書かれていないので分かりませんが、とにもかくにも小林氏宅には魔術書が残されていたということになります。
同じく小林氏宅で発見された小動物の死骸と合わせて考えると、小林氏宅では魔術の儀式が行なわれ、小動物は魔術の儀式中に生け贄として殺害されたのではないかと推測されます。
では、この魔術が行なわれた目的はなんなのでしょうか?ここで改めて本文を読み返して見ると、その答えなのではないかと考えられる記述があることに気付きます。
それはインタビュー記録に書かれていました。
小林氏: [溜息]本当だな……。あの日、俺は丁度病院から退院したところだったんだ。自転車乗っててトラックに突っ込まれてな、一時は呼吸もしていなかったらしくてよ、医者には後遺症もなく生きてるのは奇跡だって言われたな。
交通事故からの奇跡的な生還……。通常なら運が良かったということになりますが、魔術の儀式が行なわれたと考えると、この魔術のおかげで助かったという可能性が――普通なら信じられない話ですが――SCP作品においては十分にありえます。
SCP-504-JPの正体
では、一体誰がこの魔術を行い、死の淵にあった小林氏を救ったのでしょうか?
小林氏宅で発見された物品を思い出して下さい。女性用下着やファンデーションなどの女性用品がありましたね。ひとり暮らしであった小林氏宅で女性用品が見つかったことから考えると、小林氏はおそらく恋人である女性と同居していたのではないかと考えられます。
もうお分かりかと思いますが、この同居していた女性こそがSCP-504-JPなのではないでしょうか。
小林氏の恋人(妻の可能性もあります)であった女性が、死の淵にある小林氏を救うために魔術書を用いて魔術を行ない、その結果小林氏を助けた。しかしその女性はその代償として、自身の存在の記憶や記録が世界から消え失せ、SCP-504-JPと変わり果てた――。
恐らくはこれが事の真相でしょう。SCP-504-JPが女性に見えること、小林氏の物品への激しい執着を持っていることもこれを裏付けていると思います。
小林氏が1人暮らしであるとされ、女性用品の記憶がない理由は、女性が存在したという記憶や記録が世界から消えたからとすれば、説明できます。それらの記録が全て消え失せたため、財団の調査でも1人暮らしであったと判断されたと思われます。
そして、SCP-504-JPが小林氏の恋人もしくは妻であったとすると、タイトルの意味することも明らかになります。
顔や理性を失い、愛する人に忘れ去られたとしても、愛する人を救いたい。その願いが『一生のお願い』だったんですね……。
おわりに
SCP-504-JP – 一生のお願いでした。愛する人を救えたものの自身は化け物として火を付けられ、苦しみ続けるという哀しいSCP作品でした。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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コメント
最初、読んでも意味がわかりませんでした
解説ありがとうございます
それにしても、短い中にものすごい情念と悲哀が込められた報告書ですね…
人型実体が燃え続けてると聞くとSCP-2419を思い出しますが、こちらも負けず劣らず…