脱出するまで数千年以上かかるという気が遠くなるようなSCPがあったので紹介します。
SCP-2503は、カナダ、ブリティッシュコロンビア州バーナビーのおよそ██キロメートル北に位置している、1952年に建てられた住宅2階の主寝室(SCP-2503-1と指定)に存在する時空間異常。オブジェクトクラスはSafe。
財団はこの住宅を買取り、現在はサイト-2503として管理・収容している。住宅の前所有者は197█年に行方不明が宣告され、197█年以降、居住者はなく荒れ果てた状態となっている。
SCP-2503の異常特性
SCP-2503の異常特性は、SCP-2503-1の扉から室内に入った際にのみ活性化する。侵入した者は一直線に伸びたコンクリートタイル製の小道を有する空間に移動する。空間内では明確な光源がなく薄暗く照らされた空を見ることができる。この空間はSCP-2503の内部空間だと想定されている。
観察の結果、SCP-2503内部の時間と空間は通常と異なることが示されている。空間内に進入した被験者は時間の経過を知覚するが、内部空間で加齢することはない。小道の長さは不明で既知で唯一の出口はガイガー-グレゴリオアルゴリズムによってサイト-2503のガレージ内の小さな倉庫(SCP-2503-2と指定)であると確認されている。
発見の経緯
199█年██月██日の朝に現地の警察が住宅から銃声を聞いたという報告を受け取ったことでSCP-2503の存在が発見された。現場のガレージから30代男性の死体が発見され、この人物は3日前に行方不明となっていたバンクーバー在住の建築デザイナー、ヘンリー・██████であると後に確認された。検死解剖の結果、死因は自殺だと判明した。サイト全体の探索中に警察はSCP-2503の存在を発見し、潜伏エージェントによる通知を受けた財団は直ちに事態を引き継ぎ、住宅は封じ込めサイトに転換された。
死体の横の床には鞄があり、そこからは以下の物品が回収された。
- Nokia 9110iモデルの携帯電話
- █████ █████████のラベルが付けられた業務用メモ帳
- ハーシーズのキャンディの包み紙4枚
- 1958年のプレイボーイ誌1冊
- 財団標準のフィールドキット
- 財布2個(1個のみがヘンリー・██████自身の所有物)
財団はメモ帳内に残された文章を抜粋し、回収文書2503-1として記録した。
収容後の事件及び実験
事件記録
199█/██/██、初期封じ込めチームがサイト-2503に到着した際、エージェント・███████は単独でSCP-2503-1に突入したが、SCP-2503-1の扉が偶発的に閉まり、エージェントは小道のある空間に移動した。無線機を介してエージェントは、扉が視界から消失したことおよび彼自身はその場から移動していないことを報告した。報告を受け、外部の封じ込めチームは直ちに扉を開いたが、その姿はどこにも見当たらなかった。エージェントは「少し歩いて、これがどこに繋がっているか見に行く」と提案した*[1]が通信はすぐに途切れ、それ以上の接触を確立することはできなかった。そのためエージェントは行方不明と宣告された。
実験記録
財団はGPSとカメラを備えた半自律ドローンをSCP-2503-1内部に送り込んだ。ドローンは扉を閉じた後に映像と音声を送信し始めたが、この時GPSの位置座標は追跡不能となり、直後に停止した。小道が一本道であること、視認可能な実体が他に存在しないことが映像から確認された。注目すべきことに、ドローンの電池は6時間であったが、39時間後に未知の原因によって信号が途切れるまで稼働を続けていた。
次の実験として財団はDクラス職員をSCP-2503-1内部に送り込み、小道に沿って歩きあらゆる発見を報告するよう指示した。実験の間、無線機は通話状態で維持され、最初の30分は何事も起こらなかった。途中でDクラス職員に休息を取るよう促すと、彼は疲れも空腹も喉の渇きも感じていないことを報告した。彼はたった30分しか経過していないことに対して驚いており、「何時間どころか何日も過ぎたようだ」と応答した。実験開始からおよそ53分後に無線機はSCP-2503内部からの干渉を受け始めた。全ての通信は56分後に途絶えた。D-029-271はこの時点で失われたと見なされた。
回収文書2503-1
回収文書2503-1は以下のような内容でした。
このメモを見つけた全ての人へ。
俺には君がどこの誰だか見当もつかないが、運が君に味方するなら、こんな地獄に閉じ込められる俺のような目に遭っていないことを願おう。
俺はヘンリー・██████。カナダのバンクーバーで生まれ育って、ロザリーヌと結婚した。今年で2歳になる娘、マリアンヌにも恵まれた。住所はバンクーバー、██████通り████番地。もし君が何かの機会にこのメモを入手したなら、これを俺の家族に届けて欲しい――ちょっとした代金を請求してくれても構わない。
正直に言うと、俺はそもそも自分がどうやってこんなところに来たのか確信が持てない。俺は█████ █████████建築事務所で働いていた。仕事はちょうど中流ホワイトカラーと言って君が想像するような類のもので――休む暇もなかったが、充実していた。毎週金曜の夜に俺の部署は、1週間の仕事に精を出した俺達の鬱憤を晴らすためにパブで飲み会を開いてる。だから俺は今週も何人かの別の部署の同僚とその場所にいた。新人が何人かいたからちょっと歓迎会みたいな形になって、それで少し飲み過ぎることになった。ウィルとケビンに家まで送ってくれと言ったところまでは覚えてるんだが、その後のどこかで完全に気を失ってしまった。振り返ってみると、あいつらは頼んだ通りにしてくれなかったみたいだな。
目が覚めると、ちょうどここに――どこにも辿り着かないこの道の上に横たわっていることに気付いた。可笑しなことだが、最初にした事は鞄と財布の確認だった。何も盗まれてはいなかったが、記憶に無いものを見つけた。折り畳まれた紙と、それに添えられた懐中時計だ。手書きだったから最初は自分で書いたのかと思ったが、こんなものを書いた記憶は全く無い。次のページに内容を書いておくから参考にしてくれ……
これを当てつけだとは受け取らないでください。
ヘンリー、あなたは偉大な人間です。仕事を愛し、会社を愛し、自分の人生観を愛し――それが、あなたがここにいる理由です。私は自分自身についてかなり多くのことをあなたから学びましたし、あなたのご指導には心から感謝しています。だから、私は去る前にあなたにちょっとした贈り物を残していこうと考えました。
ここをあなたに相応しい理想郷だと考えてください。あなたはいつも時計の針と競争してきましたが、ここにそんなものはありません。時間はあなたの手中にあり、あなたが進めようとしない限り進むことはないでしょう。これは決してあなたの手を離れることはありませんから、昔のあなたのようにずっと走り続ける必要はありません。歩くのが良いですし、そうすることになるでしょう。
これは喜ぶ価値のあることじゃありませんか?
あなたが、ここをあなたの真の居場所だと思うようになると確信しています。あなたは好きな場所を彷徨うことができます。食料や水については心配しないでください――あなたの心はもっと重要なものに占められるべきです。もし出たくなったなら、道を辿っていけばタイマーがあなたを出口へと導いてくれます――少し長い道のりになりますが、あなたは大丈夫です。
つまるところ、時間はあなたの手中にあるのです。
……これは、俺をこんなところに放り込んだ誰かが残していったものだと推測する。ともかくも誰の仕業かは分からない――いつも入れ替わってるインターン連中だろうか。くそっ、多分先月来たウェスリーの小僧だな。あいつがいつかトラブルを起こすことは分かってた。
俺はもう3日も誰かと連絡を取ろうとし続けているが、携帯の電波は届かないし、何かの生き物がいる気配もない。ここがどこかは知らないが、とにかく地下深くに違いない。ここでは時間も計れない。携帯の時計はおかしくなってるし、腕時計もちょっと前に止まってしまった――と考えたところで、紙に懐中時計が付いていたことを思い出した。だが時間は表示されてないし、少なくとも普通の時計にあるような文字盤はない。ただ電子ディスプレイがあるだけで、今はまだ何も表示されてない。まだこれが何をするものなのかは分からない。とりあえず歩道を歩いてみよう。ここには太陽も月もなく、どこからか分からないぼんやりとした光だけがある。だけど1本のコンクリートの歩道がまっすぐに地平線まで伸びていて、他の方角はすぐに闇の中に消えている。俺の本能は光に沿って進めと告げている。そろそろ筆を置く時が来たようだ。君が俺のようにこの空間で立ち往生しているのなら、君に最高の幸運と、俺が失敗した所で成功することを祈る。これをどこで見つけたとしても、警察と俺の家族に知らせてくれ。今一度、君に感謝する。
署名
ヘンリー・██████
ヘンリーは飲み会で酔いつぶれたようでおそらくは仲間に連れられて帰宅し、目が覚めると小道にいたようです。携帯の電波が入らず、携帯の時計や腕時計は止まっているようです。また所持品の中からこの状況を作り出した誰かが残したと思われる見覚えのない折り畳まれた紙と、それに添えられた懐中時計を発見した模様です。この状況を作り出した誰かは感謝の気持ちから時間に気を取られることなく、他の重要なことに心を向けられる食料や水のいらない環境を用意したようです(なんと迷惑な……)。ヘンリーは地平線まで続くこの小道を進むことにしたようです。
ヘンリー・██████だ。前のメモの最後が何か遺書みたいに見えることは分かってるが、別にそんな意図があったわけじゃない。
少しあたりを歩き回ってみて(どのくらい歩いたかは全く分からない)、俺はこの世界に本当に驚いてる。第一に、普通の世界の法則というものがここでは全く適用されないようなんだ。俺の推定では起きてから30時間は経っているが、スタンバイ状態だといつも80時間くらいで切れる携帯の電池はまだ70%も残っている――昨日の夜と同じだ!もっと驚いたことに、俺はパブ以来何も食べてないのにほんの少しの空腹も疲れも感じない。
そして別の話になるが――懐中時計の使い方が分かったと思う。実のところ言うのも恥ずかしいんだが、横に小さなボタンが付いていたんだ(以前に気付かなかったのが信じられない)。これを押してから5秒間、スクリーンに一連の数字が現れる。数字は歩くにつれて変化している。意味する所はまだ分からないが、着実に減っていることは確かだ。今からこれを書き留めておくことにする。今の数字は9927-330だ。
それと、以前に俺は眠ってみようとしたがうまく行かなかった。俺は全く疲れてないし、コンクリートの地面は最高のベッドとは言えないからな。健康状態は本当に大丈夫なのか心配し始めているところだが、今のところ食べも、飲みも、眠りもしない状態は、まだ俺の負担にはなっていない。俺はもう少し歩き続けるだろう。どこにも人間活動の痕跡はなく――1匹の生き物すらいない。だが俺は探し続けるだろう。何か面白いものを見つけたら書き留めておくつもりだ。今から、このメモ帳を俺の探検記録にしよう。
懐中時計はボタンを押すと7桁の数字が表示される模様。食事だけでなく睡眠も不要のようです。さらに時間の流れが異常であることに気づいたようです。Dクラス職員の実験とあわせて考えると、体感する時間の流れが非常に遅くなっているようです。
[9927-129]
そろそろ次の記録を書く時が来た。以前の8回は実のところ特に何も書くべきことは無かったんだが、今回は違う。今日は 悪い 良い [判読不能]ニュースがある。結構前から、記録をつける時に時計の数字を書き留めていたけれど、その数字の意味する所を理解したと思う。これは……以前からそうだったはずだ。そうだとは思ってたんだけど、なぜか受け入れることができなかったんだ。数字が減少する間隔から判断すると、最後の3つの数字は24時間ごとに1ずつ減っているようだ。もう分かっている。そうだと確信できる。歩きながら意識して時間を計るのもだんだん上手になってきたし。つまり、俺はこれを何らかのカウントダウンだと考える。
それでも……意味が分からないままだった方が良かったかもしれない。君が俺と同じ状況にいるのならアドバイスしておこう。何日、何時間、何分歩いたか数えようとはするな。俺はそうしようとして諦めた。頭がおかしくなるだけだ。君の体は疲れないから時間の流れを感じることはないが、数えることに心を割けばそれを感じるようになるだろう。信じようと信じまいと、俺が最後に時計を見ることを思い出したのはまだ236の時だった。
ヘンリーは頭の中で時間を数え、最後の3つの数字は24時間ごとに1ずつ減ることに気づいたようです。ということは左の4桁の数字は……。
[9926-364]
[判読不能、おそらく罵り]、そんなこったろうと思ったよ!
ああ、何て甘い考えだったんだろう。俺はどこかの時点で、また時間を数え始めた。そして時計のことを思うたびにそれを確認し続けた。1が0になる瞬間に全ての希望を託して。意図的に左の4桁を無視して……
俺は間違ってた。飢えも疲れも存在しないなら、これを瞬きしている間に乗り切ることができると思ってた。だが俺は神じゃない!ここには人との交流がない。家族も友人もいない!なんでこんなことをやり通さなければならないんだ!?……こんなに激しく泣いたのは父が死んだ時以来だ。だがもう終わりにする時が来た。行かなければ。そうしない理由はない。今しがた、俺はハーシーがまだ残ってないか確かめてみようと探してる間に、財布の中のロザリーヌの写真を見てたところだった。それに可哀想なマリアンヌ……彼女はもう4歳に、父を失った4歳になってるはずだ。例え彼女のためだけだとしても、俺は進み続けるだろう。
左の4桁は1年に1つ減ることが判明(やはり……)。
ヘンリーはひどくショックを受け、絶望のあまり号泣。しかし残してきた妻と娘のために進み続けることを決意します。
[9892-63]
今日はひどい過ちを犯してしまった。人生で二番目にひどい過ちだ。[判読不能]……あれは何かの機械で、小さくて空を飛んでた。自分では見たことはないんだが、あれはいわゆる「ドローン」というやつだ。ジ ダ 大学の二年次に同居していたある男(ずいぶん長い間会っていない)が言ってたやつの一つだ――彼は工学畑だから、これを見たら感激しただろう。彼がここにいなくて残念だ。誰かが連れ添ってくれるなら俺は本当に感謝しただろう。たとえこんなドローンでも。だが、ただ長年の孤独で俺は酷く怯えてたんだと思う。俺は反射的に手を振り上げて鞄を叩き付けた。あの物体は[判読不能]……ここに残していく他にないことだけは分かった。
土産に部品を持って行こうかと思ったが、そうするとそれを見るたびに俺の失敗について思い出すことになる……例えば 外の誰かと接触できる可能性を逃した もう止めよう。もうああいうものにどう対処したらいいかは学んだし、俺はそうすることができる。
前回の記述から34年後、財団が実験で送り込んだドローンを発見した模様。ドローンが停止したのは怯えたヘンリーによって破壊されたためのようです。
[9744-306]
最後の記録から7年も経ったなんて信じられない。俺は無気力になってしまった。人間の年齢なら俺はもう死んでるべきだ。だけど俺はまだ若い。知識も経験も無いまま、考え方だけが老人になってしまった。
思考を止めると時は矢のように流れていく。急流の流れのように――妨げられず、気付かれず、乱されず。俺は賢くないが、それを学ぶ必要がある、というのが俺の証明したことだった。そのやり方をここに書き留めておく:[編集済]
前回の記述から148年後、ヘンリーは考えるのをやめた。思考を止める方法を編み出したようです。
[9725-350]
一筋の光が空を照らした。一瞬だけ明るく輝いたけれど、次の瞬間にはもう消えていた。
…
…
[9308-144]
俺に心が戻り、174年ぶりに座ることにした。前の記録を見てるとどこか懐かしい気持ちになる。長く忘れていたいくつかの感情が頭を過ぎった。気付かない内に頬を涙が流れていた……これ以上考え続けることは許されない。そうしたら俺は破滅するだろう。別の話になるが、いつかの昔に俺は地面にかなり珍しいものが落ちてるのを見つけた。1958年のプレイボーイ誌だ。10代の頃に好きだった映画に出ていたラリ・レイン (Lari Laine) 以外は誰か分からなかった。この先の道程でまた心細くなった時に備えて、これを持っていくことにした。
1958年のプレイボーイ誌を拾ったようです。過去にもこの空間に人が来たことがあったのでしょうか?
[9217-31]
今日、人間を見つけた。
だが嬉しいのか悲しいのか分からない。
多分、俺は嬉しく思うべきなんだろう。もう自分以外のどんなものでも孤独に慰めを与えてくれるのだから。でも彼と会話はできなかった。彼は地面に突っ伏していて、側頭部には風穴が空いてた。この可哀想な奴は銃で自殺したんだ。彼も俺と同じようにここに閉じ込められたんだと思う。でもある種の警官みたいに、全身の装備が行き届いてるように見えた。
ああ、俺は自身の最初の反応にむかつくような思いがした。悲しみでも不安でもなく、[編集済]だった……その後で、俺は彼の身体検査をした。所持品は次の通りだった。拳銃1丁、懐中電灯と細々した装置の入った道具一式、1包装のガム、無線機(壊れてるようだ)、そして何かの組織の職員IDカード。これら全てを彼の財布と一緒に鞄に詰め込んだ――金が欲しかったからじゃない。そして、俺は去る前に彼に略式の賛辞を述べた。彼の最期を見て、俺の心は少しばかり整理された。俺は脱出しなければならない――どれほどの時間がかかろうとも。
エージェントと思しき死体を見つけ、所持品を回収。脱出への決意を新たにしたようです。
…
[9216-172?]
きっとこれが最後の記録になるだろう。俺はもう死人と変わらない。
昨日のことだ……多分。どれくらい前のことかは全く分からないが、俺はついに最後の自制心を失ってしまっていた。俺はまた考え始めた。仕方がない。もう気を紛らわし続けることなどできない。高い場所にいると飛び降りたくなるようなものだ。最初は大丈夫だが、長い間崖の縁に立ち続けていると、そこから一歩踏み出したくなるんだ。俺は全て大丈夫だと自分を偽ろうとした。だができなかった。そしてどれだけの時間が流れたか振り返った――ほぼ800年。もう8世紀も歩き続けて……最終的にどこに行き着くのかも分からない。俺がこんな仕打ちを受けなきゃならないほどの何をしたって言うんだ?!俺はかっとなって懐中時計を投げ捨てた。すぐに気付いて己を取り戻したが、時計はもう背後の暗闇の中に吸い込まれていた。戻って探そうとしたが、それはただ消えただけだった。音すらも聞こえなかった。一息おいて、俺は自分が何をしてしまったかに気付いた。
後どのくらい耐えられるかは分からない。もう引き返しても行き場はない。今、俺はただ答えが欲しい。鞄の中の拳銃が呼んでいるけれど、俺はその声に好き勝手にさせるつもりはない。まだできることはある。ゆっくり進もう。時間は俺の手中にあるんだ。
…
ヘンリーは思考を止めていたようですが、耐え切れず考え始めてしまったようです。なんと懐中時計を捨ててしまいました。自殺も考え始めていますがまだ進もうとします。
…
…
[????]
声が聞こえたような気がする。どこからかは分からない。
…
…
…
[????]
寒い。
…
…
…
[????]
ぼんやりしていた。ふと気がついて歩き始めた。
…
…
[????]
ここはどこだ?
…
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…
…
[-? 夜明けまで]
この悪夢のような長過ぎた道のりも、そろそろ終わりに近づいてきたように感じる。考えてきたことはあまりにも多く、その中身はあまりにも少ない。俺は自分自身とこの道とに折り合いをつけてきた。全ての記憶が霞んでいるようにも感じるが、こう書くにはあまりにも現実味があり過ぎる。この日誌も、この旅も終わりに近いようだ……見る限りでは。俺がどのくらい進み続けてきたかはもう分からないが、太陽――とにかく、地平線の下で輝く何かが昇ってきているようだ。そろそろ朝焼けが見える。
終わりが見えてきたようです。
[悔いは無い]
済まない。
ここで文章は終わっていますが、すまないとは一体どういう意味でしょうか?死体があったことから帰還はできたと考えられますが、なぜヘンリーは、想像を絶する時間を耐え抜き帰還したにもかかわらず自殺してしまったのでしょうか?
その後の調査
財団は、ヘンリーは内部空間から脱出したおそらく唯一の個人であると考えており、彼の消失から再出現までの時間(80時間未満)がSCP-2503-2を介してSCP-2503から脱出するために必要な時間であると受け止められている。
文書2503-1の情報から彼とその家族、同僚に対する大規模な背景調査が行われ、以下の事実が明らかとなった。
- ヘンリーの同僚からは、ヘンリーは失踪以前に仕事から極度のストレスを感じていたこと、常軌を逸した振る舞いを始めていたことが報告され、彼らの多くは彼が毎回違った振る舞いと話し方をしていたことを思い出した。
- ヘンリーが失踪した金曜夜の飲み会の参加者は、いつもは頻繁に参加していたヘンリーが、その夜は「自分のための時間」が必要と言って招待を辞退したことに言及した。
- ロザリーヌ・██████と彼らの主治医は、ヘンリーが最近大声で独り言を言うようになっており、頻繁に不眠の症状に苦しんでいたとコメントした。
- また██████女史は██████一家の世帯に子供は1名しか登録されていないことを明かし、13歳の息子であるマーティ・██████を紹介した。
この調査が事実であるとすると、あの空間を作り出したのは仕事のストレスで精神的に追い詰められたヘンリー自身だったのでしょうか?しかし、彼は文章の中で娘がいることを述べており、いくら精神的に追い詰められたとしても、自分の息子を娘だと思い込むというのは無理がありそうです。
ここからは個人的な解釈になりますが、回収された文章を書き、小道から脱出したのは並行世界のヘンリーだったのではないでしょうか?
あの空間から小道をたどって脱出すると、元の世界ではなく別の並行世界に出てしまうという異常な特性がSCP-2503にはあった。そう考えるとつじつまが合います。
並行世界のヘンリーは小道のある空間から脱出します。しかし、やっとたどり着いた場所は、元々暮らしていた世界ではなかった――娘が存在しなかったのです。このあまりにも残酷な事実に気付いた彼は、最後の希望を失い、もはや娘と再会する手段はない――死んでも悔いはないと考え、自殺してしまったのではないでしょうか?
一方で、こちらの世界の精神的に追い詰められていたヘンリーもまた、同じように小道のある空間に行ったと考えられます。
最後になりましたがこのSCPのタイトルは推定距離:9216年でした。救いのない結末でしたが、想像を絶する時間を耐えたヘンリーの強い意志には感服しました。
コメント
えげつない……