SCPにはSCP-231 – 特別職員要件やSCP-565-JP – 手のひらヒーローズといった、読後感最悪な作品がいくつかあります。そんなSCPの中から今回はSCP-268-JP – 終わらない英雄譚を紹介します。
SCP-268-JPとは
SCP-268-JPはタイトルと思しき一文が刻印された黒の革表紙と計測不能な枚数のページで構成される書籍群。オブジェクトクラスはEuclid。財団は現在まで計███冊のSCP-268-JPを収容している。
SCP-268-JPは、日本国内において“危険を伴う救命活動を行ったことで死亡した人物によって、命を救われた過去を持つ人物”の前に無作為に出現する(以下、救命された人物をSCP-268-JP-A、救命を行った死亡者をSCP-268-JP-Bと表記)。
出現時点のSCP-268-JPには『[SCP-268-JP-A(救命された人物)を想起させる表現]を救った、[SCP-268-JP-B(救命を行った死亡者)を想起させる表現]の英雄譚』というタイトルが刻印されている。
初めの数ページは序章と題され、SCP-268-JP-AがSCP-268-JP-Bに救命された経緯が簡潔に記されており、それ以外は白紙となっている。SCP-268-JPが出現するタイミングは救命から数ヶ月~数十年までと規則性がなく、SCP-268-JP-Aの条件を満たす人物の膨大さも併せてその特異性の発露を事前に予測・防止することは困難となっている。
出現したSCP-268-JPにSCP-268-JP-A(救命された人物)が接触した場合、SCP-268-JP-Aはただちにその場から消失する。消失している間、SCP-268-JP-Aがどこに存在しているのかは判明していない。以降SCP-268-JPには24時間経過するごとに1つずつ新たな章が瞬時に追加される。その際SCP-268-JPが一定以上の損傷や汚染を受けていた場合、新品の状態に回復するという特性を示すためにオブジェクトの破壊や焼却は無意味。
追加された章に綴られている内容は例外なくSCP-268-JP-Aが危機的状況に晒された状態で始まり、それを前にしたSCP-268-JP-Bが命懸けの救命を行うかの選択を迫られるというものになっている。この際登場するSCP-268-JP-Aは消失時点の姿と記憶を有し、SCP-268-JP-Bは死亡時点の姿と記憶を健常な状態で有しているように読み取れる。
SCP-268-JP-Bが行動を起こした場合、状況に関わらず救命は成功しSCP-268-JP-Aは生存するが、一方でSCP-268-JP-Bは例外なく死亡する。章はSCP-268-JP-Bとその行為に対する賞賛で締めくくられ、次章では前章と異なる危機的状況が展開しSCP-268-JP-Bは再び選択を迫られる、というサイクルが繰り返される。
文中の言動からSCP-268-JP-Bのみ以前の章の記憶をすべて持ち越していると考えられている。また作中には警官、医師、観衆といった人物も登場しますが、それらは一定の言動を繰り返すことしかせず、両名が対話を試みるも失敗する描写が散見される。
簡易まとめ
ここまでの記述をまとめてみます。
SCP-268-JPは、”救命を行った死亡者”により”救命された人物”の前に現れる本のオブジェクト。出現時には、『[“救命された人物”を想起させる表現]を救った、[“救命を行った死亡者”を想起させる表現]の英雄譚』というタイトルがついている。また序章には、救命の経緯が簡潔に記されている。
SCP-268-JPに触れた”救命された人物”は消失し、”救命された人物”が消失した時点の姿でSCP-268-JPに登場する。また、過去に”救命された人物”の”救命を行った死亡者”も死亡時の姿と記憶で登場する。そして24時間ごとに1つずつ追加される章の中で、様々なシチュエーションで”救命を行った死亡者”による”救命された人物”の救出劇が繰り返される。
この際、”救命を行った死亡者”は助けるか否かの選択を迫られ、助けることを選ぶと、”救命された人物”は救命され、”救命を行った死亡者”は再び死亡してその章は完結。新たな章が追加され、”救命を行った死亡者”は以前の章の記憶を持ち越した上で、救出劇が始まり再度選択を迫られる。
再び助けるとループしますが、助けない場合はどうなるのでしょうか?嫌な予感しかしませんが……。
特別収容プロトコル
特別収容プロトコルは以下のようになっている。警察、消防、医療機関から収集された情報からSCP-268-JP-Aの条件を満たすと判断された人物はリストアップされ、その動向が監視されます。該当人物に不審な失踪などが見られた場合、財団エージェントが調査とSCP-268-JPの回収を行い、目撃者が存在した場合には記憶処理を施しカバーストーリーを適用してください。
SCP-268-JP-Aの条件を満たすレベル1以上の財団職員に対してはその職務・権限に関わらず当該オブジェクトの情報が開示され、特性の把握と遭遇時の報告が義務付けられます。
回収されたSCP-268-JP群は0.8m×2.0m×0.5mの専用ケージにそれぞれ収納した状態でサイト-81██の収容室に収容されています。SCP-268-JPの加筆内容はすべて記録し、SCP-268-JP-Aの出現が確認された場合には専用ケージごと収容室から撤去し、検査の後に規定の手順で処理してください。特異性を喪失したSCP-268-JPは収容室から撤去され、同サイト内の安全保管ロッカーに保管されます。現在、後述のプロトコル・ヴィラン-268が当オブジェクトへの対抗措置として実施されています。
特別収容プロトコルでは、SCP-268-JP-Aの条件を満たす者を監視し、不審な失踪者が出たら調査を行い、SCP-268-JPの発見・回収と隠蔽処理を行っています。また当オブジェクトへの対抗措置としてプロトコル・ヴィラン-268が実施されている。
SCP-268-JPの章内容の例
- SCP-268-JP-Aが地下鉄のホームから転落する。SCP-268-JP-Bがホームに押し上げ救命するが、自身は直後通過した列車と接触し死亡する。
- SCP-268-JP-Aに向かって鉄骨が落下する。SCP-268-JP-Bが突き飛ばすことで救命するが、自身はその下敷きとなり死亡する。
- SCP-268-JP-Aが増水した河川に流される。SCP-268-JP-Bが河川に飛び込み救命するが、自身は力尽き濁流に呑まれ溺死する。
- SCP-268-JP-A、SCP-268-JP-Bの両名が山中でガラガラヘビの毒に侵される。SCP-268-JP-Bは所持していた一人分の血清をSCP-268-JP-Aに与え救命するが、自身は死亡する。
- SCP-268-JP-Aは拳銃を所持した暴漢に捕まっており、暴漢はSCP-268-JP-Aの解放条件に新たな人質を差し出すことを要求する。SCP-268-JP-Bが人質になることを申し出て交換が行われるが、最終的にSCP-268-JP-Bは射殺される。
- SCP-███-JPに似た外観と特性を持つオブジェクトによりSCP-268-JP-Aが[編集済]を受ける。SCP-268-JP-Bは[編集済]することで救命を行うが自身は[データ削除]となって死亡する。
SCP-268-JPの章内容の例ですが、SCP-268-JP-B(救命を行った死亡者)は救命を行う度に様々な状況で死亡します。しかもSCP-268-JP-Bは前章の記憶を全て保持していると考えられているので、SCP-268-JP-Bの主観では救命するたびに死を体験し続けることになります。SCP-268-JP-Bにとっては、終わらない責め苦を与えられるまさに地獄のような状況です。
章内容の例に続いて救わなかった場合に起きることが明らかになります。
消失から不定の期間をおいて、SCP-268-JPの傍らには様々な要因によって死亡しているSCP-268-JP-Aが出現する。その際SCP-268-JPに追加された章は最終章と題され、SCP-268-JP-Bが救命を諦めたことでSCP-268-JP-Aが出現した死体と同様の要因で死亡する様子と、それを見届けたSCP-268-JP-Bが『霧のように消滅する』様子が記述され完結している。また表紙のタイトルはSCP-268-JP-Bを侮蔑する一文へ改題されており、これ以降該当のSCP-268-JPはあらゆる特異性を喪失する。
やはり救わなかった場合も最悪でした。
救命を諦めた場合、救命された人物が死亡する様子が記述され、その人物の死体がSCP-268-JPのそばに出現。SCP-268-JPには最終章が追加され、救われた人物が出現した死体と同様の要因で死亡する様子と、”救命を行った死亡者”がそれを見届け、『霧のように消滅する』様子が記述されます。その際表紙のタイトルは過去に救命した人物を侮蔑する一文へ改題され、これ以降該当のSCP-268-JPはあらゆる特異性を喪失します。
プロトコル・ヴィラン-268
現在SCP-268-JPとSCP-268-JP-Aとの接触のリスクを軽減させるための手順としてプロトコル・ヴィラン-268が制定されている。これは財団のフロント企業である███書房にSCP-268-JPのデザインとタイトルを模倣した書籍をシリーズ化させ、不定期に出版・発売を行わせている。
その論述中には様々な救命行動の実例を挙げた上で救命した者、された者を徹底して批判・侮辱する論調を展開させており、これは各地で多数の民事訴訟を引き起こした。現在このシリーズは忌避すべき問題作として世間に認知されており、これによりSCP-268-JPによる被害発生件数を約15%減少させることに成功している。
プロトコル・ヴィラン-268は、SCP-268-JP-A(救命された人物)がSCP-268-JPに接触することを防ぐ試みのようです。
まず、SCP-268-JPに似せた本を出版し、忌避すべき問題作のシリーズとして世間に認知させます。この本の内容は様々な救命行動の実例を挙げた上で救命した者、された者を批判・侮辱するというもので、これによりSCP-268-JP-A(救命された人物)にこのシリーズに対して強い嫌悪感を抱かせます。
結果、SCP-268-JP-Bの前にSCP-268-JPが出現しても、その本が問題作の中の一冊であると誤認したSCP-268-JP-Bが嫌悪感からSCP-268-JPに接触しないことが期待できます。
ヴィランは英語で敵役のことですが、SCP-268-JPに似せた本を”悪役”とすることで被害発生件数を約15%減少させることに成功しています。SCP-268-JPによる被害を減らす試みSCP-268-JPの内容例は以下で確認できます。
財団が保有するSCP-268-JP(抜粋)
SCP-268-JP-17
SCP-268-JP-A: 26歳女性。消失の2年前に肝癌の治療のためSCP-268-JP-Bから肝移植を受け救命される。
SCP-268-JP-B: 享年32歳。男性。SCP-268-JP-Aの実兄。肝移植の手術の後、合併症により死亡。
表題: 病魔に苦しむ妹を救命した、心優しき兄の英雄譚
改題後: たった一人の肉親を見殺しにした屑野郎の物語
内容: 全96章。最終章でSCP-268-JP-Aは大型車両に撥ねられたことによる内臓破裂で死亡する。
SCP-268-JP-42
SCP-268-JP-A: 11歳男性。SCP-268-JP-Bの実子。
SCP-268-JP-B: 享年29歳。女性。SCP-268-JP-Aの出産時、胎盤剥離により母体か胎児かの選択を迫られるも出産を決断し死亡する。SCP-268-JP-Aが自身の息子だと認識しているように読み取れる。
表題: まだ見ぬ我が子の命を救命した、愛深き母親の英雄譚
改題後: 無情なアバズレの息子として生まれたがために泣き叫びながら燃え尽きた少年の悲劇
内容: 全127章。最終章でSCP-268-JP-Aは炎上する家屋に閉じ込められ焼死する。
SCP-268-JP-79
SCP-268-JP-A: 34歳男性。消失の8年前に派兵先の███にて敵襲を受けた際SCP-268-JP-Bに救命される。
SCP-268-JP-B: 享年37歳。男性。SCP-268-JP-Bを銃撃から庇い死亡する。
表題: 未来ある若き兵士を救命した、尊敬すべき上官の英雄譚
改題後: 死に瀕する部下を我が身かわいさに見捨てた腰抜けのおはなし
内容: 全186章。最終章でSCP-268-JP-Aは輸血を受けられなかったことで失血性ショックにより死亡する。
SCP-268-JP-Bが100回近くという並々ならぬ回数を耐えていることから、自己犠牲を行うほどの強い精神力が感じられますが、どこまで耐えても終わりはなく、最終的にSCP-268-JP-Aを助けることができなくなっています。
SCP-268-JP-Bの苦闘は報われず、さらに表題は改題され、SCP-268-JP-Bは侮辱を受ける……。あまりに酷い結末で、非常に強い悪意すら感じさせます。しかし次の事例は少し違いました。
SCP-268-JP-A: 8歳女性。消失の6年前に現在SCP-███-JPに指定されているオブジェクトに遭遇したことで[編集済]となるが、オブジェクトの無力化に伴いその影響から脱した。
SCP-268-JP-B: 享年2█歳。エージェント・佐久間。20██年、SCP-███-JPの回収任務中に殉職。しかしその直前、彼の機転により一時的な無力化に成功しオブジェクトは収容された。なおエージェント・佐久間はSCP-268-JP-Aの条件を満たすとしてSCP-268-JPに関する知識を有していた。
表題: 無辜の幼き少女を救命した、忠勇なる財団エージェントの英雄譚
改題後: N/A
内容: 現在2███章。
追記: エージェント・佐久間は章が始まると同時に何かを叫ぶ様子が毎回記述されているが、その発言内容はすべて検閲されている。
今度は財団エージェントの佐久間がSCP-268-JP-Bになっています。SCP-268-JP-Aの条件を満たすと書かれているので、佐久間は過去に自己犠牲で命を救われていたようです。
収容プロトコルで書かれていたように、SCP-268-JP-Aの条件を満たす財団職員にはこの情報が開示されており、条件を満たす佐久間もSCP-268-JPの情報を知っていたようです。しかし今までの例とは違い改題後はN/Aです。この理由はすぐに明らかになります。
佐久間は自己犠牲を繰り返しながら、現在もSCP-268-JP-Aを助け続けているのです。
その回数はなんと2███章。24時間ごとに章が追加されることから少なく見積もってみても5年以上もの長期間耐えていることになります。これほどの長期間耐えているのは、過去に自己犠牲で命を救われていたことも一因かもしれませんが、賞賛に値する非常に強い精神力です。
追記によれば、エージェント・佐久間は章が始まると同時に何かを叫ぶ様子が毎回記述されていますが、その発言内容はすべて検閲されているようです。恐らくは何らかのSCP-268-JPの収容につながる情報だと思われます。
後味の悪いSCPですが、エージェント・佐久間の存在により多少は嫌な感じが薄まります。果たしてエージェント・佐久間が報われる日は来るのでしょうか?
おわりに
いかがでしたでしょうか?SCP-268-JPでした。後味の悪い作品でしたが、口直し(?)におすすめなTaleがありますので、ぜひご覧ください。
表題:少年の夢と信頼を踏みにじった、エセヒーローどもの茶番劇
解釈記事はこちらです。
http://scpnote.com/archives/scp-268-jp-tale.html
ja.scp-wiki.net/scp-268-jp
アイキャッチ画像を除くこの記事の内容は『クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンス』に従います。
コメント
今更いうのもあれなのですが、佐久間が誰かに助けられたというのは何処に書いてあるのでしょうか?出来れば教えていただけませんか?
コメントありがとうございます!
直接的には書かれていませんが、財団が保有するSCP-268-JP(抜粋)内の以下の部分です。
SCP-268-JP-Aの条件は“危険を伴う救命活動を行ったことで死亡した人物によって、命を救われた過去を持つ人物”であるのでエージェント・佐久間も誰かに命を救われていたと考えられます。
過去に救われた経験があることも、エージェント・佐久間がSCP-268-JPに抗い続ける理由のひとつかもしれません。
プロトコル・ヴィラン-268の青字部分の説明においてSCP-268-JP-B(救命された者)となっていますがSCP-268-JP-Aではないでしょうか
ご指摘ありがとうございます。誤記でした……。修正します。
このTaleは、人形が救う(救われる人物は必ず死ぬ)ことを諦めることによって逆に良くなる、ということですか?
それならあのクソ人形共に大分すっきりしますね
解釈した記事を書きました。こちらをご覧下さい。
http://scpnote.com/archives/scp-268-jp-tale.html