SCP財団の作品は、通常、アイテム番号、オブジェクトクラス、特別収容プロトコル、説明からなる報告書形式の文章になっていますが、異なる形式の文章となっている場合も多々あります。
これらはフォーマットスクリュー(Format Screw)と呼ばれています。フォーマットスクリューの記事は上手く利用すれば読者の興味を引きやすくなり評価に繋がりますが、反面、内容が伴わなければ奇をてらっただけという評価にもなりえます。
今回はフォーマットスクリューの記事の中から『SCP-4311 – 私は君を大切にするよ。』を紹介・考察します。
SCP-4311
SCP-4311は報告書の冒頭部分に注意書きがあり、
この報告書は給餌用です。
職員はSCP-4311の正確な情報を確認する場合、データベース外資料を確認してください。問い合わせがある場合は情報構成部門研究員をコンタクトしてください。
認証を確認しました。
給餌プロセスを表示します。
と書かれています。これ以降が報告書になりますが、その内容は通常と異なり、地の文と灰色の引用ブロックとの間の会話になっています。会話の内容から、地の文がSCP-4311、引用ブロックが「私」であるようです。「私」はファイルを編集できるので「私」は財団側の存在であると推測されます。
この報告書は給餌用と書かれており、『SCP-4311の正確な情報を確認する場合、データベース外資料を確認してください。』とも書かれていることから、今見ているファイルは給餌用で本来の形式の報告書はデータベースの外部に存在するようです。
給餌とはエサやりのことですが、SCP-4311へのエサやりが行われるのでしょうか?
以降は会話文に直して見ていきます。
心配しないで。君を削除するために編集しているんじゃないよ。枠を削除するわけでもないよ、だから怖がらないでね。この意味わかるよね、SCP-4311、ね?わかってくれるって知ってるよ。君がわかってくれると、私はいつも君を信じているのだから。
君からおうちを引き剥がしたりはしないからね。これを奪い去るには私は君が心配すぎるの。今週ずっといい子でいたから、このまま持ってていいからね。野生動物みたいに他のファイルを食べちゃうのは絶対いけないよ。これを確実にするため、私、たくさんのことで頑張らなきゃいけなかったの──叫んだり、ケンカしたり──でもずっと続けてるよ、どれもこれも君のためにだよ、SCP-4311。ぜーんぶ君のためだよ。
SCP-4311。素敵な名前だと思わない?君のためにつけた名前だよ。
わ
わ
SCP-4311。
.
言葉を遮ったらいけないって言ったよね?
ち
言葉を遮るってことは、君は私の言う言葉を食べることから気がそれているということだよ。つまり君は忘れてお腹が減って、他のファイルを食べちゃおうと逃げ出しちゃうってことだよ。ケダモノみたいに。
何回言わなくちゃいけないのかな?忘れちゃうなんて、本当にバカなんだから。
4 43 4311
君の数字にぴったりだね。
私が来る前、名前を与えられる前、どんな感じだったか覚えてる?あの死んだサーバーの中で冷たい思いをしたでしょう。自分の視覚と実体なしじゃあんまりにも真っ暗で、周りのものを手当たり次第攻撃してた。あそこでの君はケダモノだった…間抜けで、おバカなケダモノ。自分自身にとって何が一番いいかもわからないくらい怖がっていた。
まあ私には関係ないことなんだけどね。私は君にとって何がいいかわかっているからね。愛してたからね。今も愛してるよ、SCP-4311。
ち
ち ちがう
ちがう?
ちがう
何が違うの?
私、何かいけないことでもした?
4311
ほらほら、SCP-4311、それは君のお名前。ずーっと君の名前。でもそれを思い出させるためにいつだってここにいるからね。それをずっとやってあげられるくらい愛してるからね。
サラ
.
.
.
ねえ、あのサーバーのさらに前がどんな感じだったか覚えてる?
君にはお母さんがいた。君にはお父さんがいた。君には猫さんが、ご近所さんが、学校が、先生が、お友達が、人生があった。昔のゲームを集めて、手につくあらゆる説明書を集めた。あの頃のみんなは幸せだった。太陽は暖かくて、草木は命に満ちていた。あの頃のみんなは幸せだった。とっても、とっても幸せだった。
君は自分がやったことを覚えてる?SCP-4311。
ちがう
ほらほら。サラを思い出せるなら自分のやったことも思い出せるでしょ?
君はお腹がすいたの。そこにはない、ぽっかりとあいた穴を自分の中に感じたの。君はずっとそれを放置した、愛する人たちに自分の違和感を伝えようともせずに、そしてその冷たさが君の持っていた優しさを全部剥ぎ取ってしまったとき、
してない
自分の愚かしさも知らないまま、
してない
君は餌を食べにいったの。
して
もう誰も彼らに会うことはできないの。君は見えるもの、感じるもの、聞こえるもの、全部を食べた。みーんな無くなっちゃった。おうちもお友達も集めたゲームも。全部壊しちゃった。草すらも残さなかった、覚えてるよね?もう誰のためにも草はないんだ。なんて自分勝手。
.
彼がどうして君にナイフを振り下ろしたのか、私にはわかるよ。
君がサラじゃないことに理由はあるの、SCP-4311
わたし
君は自分と一緒に全部引きずり落としちゃった。君のものじゃないもの全部食べちゃおうとした、最初から君のものじゃなかったものを取り戻すために。あのファイルたちを食べて人々を危険に晒したんだよ、SCP-4311。君はたくさんの人を殺したんだよ、そして彼らはもう彼らの人生にも家族にも戻れないの。君にはもう自分以外の誰も、この行いを責める相手がいないの。
でも私は君を愛してるよ、SCP-4311。私のことを傷つけてきても。
それを理解するだけの思考はあるよね?
君は私を傷つけてるの、SCP-4311。
私を傷つけてる。
財団を傷つけてる。
君を心配してくれる人たちを傷つけてる。
君を愛する人たちを。
私たちを傷つけてる。
わ
わ
わ
わかった?
わかった
わかってくれて嬉しいよ、SCP-4311。
わたし
わたし
わたしは
わたしはちがう
君がなんであろうと私には関係ないんだよ。
愛してる、SCP-4311。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してくれる?
.
.
;
愛してくれないの?
最低。
私がいなければ無価値のくせにね。
以上が本文の内容です。「私」はどうやら、SCP-4311を収容する目的で文章を入力していると思われますが、SCP-4311に対して愛してるといいながら、間抜け、バカ、無価値などとSCP-4311を罵倒していて、DVの加害者や子どもを縛り付ける親を彷彿とさせます。
SCP-4311とは
通常の報告書の形式ではありませんが、SCP-4311が何であるかは、上記の内容から推測できます。まず、
- 君を削除するために編集しているんじゃない
- 枠を削除するわけでもない
- 君からおうちを引き剥がしたりはしない
という言葉からSCP-4311はデータベースファイル上の存在であると考えられます。『今週ずっといい子でいたから、このまま持ってていいからね。』とあるので、SCP-4311はデータベース上のSCP-4311スロットに直接収容していると思われます。SCP-4311スロットがその『おうち』にあたると思われます。
では、SCP-4311の有する異常性とは何でしょうか?それは自身が知覚した存在を『食べる』ことができるという異常性だと考えられます。
- 野生動物みたいに他のファイルを食べちゃうのは絶対いけないよ。
- 君は餌を食べにいったの。
- 君は見えるもの、感じるもの、聞こえるもの、全部を食べた。みーんな無くなっちゃった。おうちもお友達も集めたゲームも。全部壊しちゃった。草すらも残さなかった、
という言葉がそれを示しています。
SCP-4311の過去
「私」によると、本来のSCP-4311はサラという名を持つ人間であったようです。サラという名前と「私」の子どもに話しかけるような口調を見るに、SCP-4311はかつては幼い少女であったと思われます。
「私」によれば、家族と共に幸せに暮らしていたサラは、ある時、自分の中に「ぽっかりとあいた穴」を感じるようになります。
それを誰にも言わず放置していたところ、サラの優しさがその穴へと剥がれ落ちたことで、周囲の見えるもの、感じるもの、聞こえるもの、全部をサラが食べてしまうという事件が発生します。
その結果、両親や飼い猫、近所の人々、先生、友達など多くの人々の命が奪われたようです。『もう誰も彼らに会うことはできないの』と書かれています。食べられたのは生物だけでなく家や集めたゲーム等の非生物も食べられた模様です。事件はサラが男性にナイフで刺されて無力化あるいは死亡することで終わりを迎えました。
『彼がどうして君にナイフを振り下ろしたのか、私にはわかるよ。』という記述がその根拠です。男性が誰かは分かりませんが、サラの身近な人物であるように思われます。
しかし、その後、どういうわけかサラは財団のサーバー上に宿ったようです。おそらく、上記の事件を元に作成されたSCP報告書に何故かサラの精神が宿っていたのだと思われます。
『自分と一緒に全部引きずり落としちゃった。』や『あの死んだサーバーの中で冷たい思いをしたでしょう。自分の視覚と実体なしじゃあんまりにも真っ暗で、周りのものを手当たり次第攻撃してた。』とあることから、この時のサラは自身の肉体を失っていたと推察されます。
肉体をいつ失ったのか気になりますが、ナイフで刺されたときに死亡した、あるいはその時に自身の開いた穴に落ちた可能性があります。
財団のサーバー上のファイルに宿ったサラは、『あのファイルたちを食べて人々を危険に晒したんだよ』という記述から、肉体を失った後も食べる能力を有しており、サーバー上の他のファイルを食べたのだと思われます。
そしてそれに気付いた財団は、サラの宿るファイルが記録されているサーバーを、おそらく物理的に隔離してサーバーの電源を落とし、サラを収容したようです。『あの死んだサーバーの中で冷たい思いをしたでしょう。』という記述からの推測です。『死んだサーバー』とは電源の入っていないサーバーのことでしょう。しかし、それでもなおサラは周りのものを手当たり次第攻撃し続けたと考えられます。
このため財団はサラを安全に収容するためにサラの宿るファイルをSCP-4311に指定し、「私」によってSCP-4311を管理していると思われます。「私」は財団の職員だと考えられます。「私」はファイルを編集して定期的に言葉を食べさせることでSCP-4311の空腹を抑えると共に、外部への攻撃を防いでいるのでしょう。さらにSCP-4311が従順でいるようにSCP-4311に対して精神的負荷をかけており、それが上記の「私」の行動なのだと思われます。
「私」はSCP-4311を収容するために、マインドコントロールを行っているようです。
「私」は終始優しい言葉をかけていますが、SCP-4311が話の途中で発言すると途端に厳しく非難します。飴と鞭を巧みに用いて相手をコントロールしようとしていると思われます。相手に恐怖を与えることで逆らわないようにさせるというのが鞭の役割です。
会話冒頭の『君を削除するために編集しているんじゃないよ。』という記述は、裏を返せばいつでも編集して削除できるということであり、自らの力をさり気なく示すことでより恐怖を与え、逆らう意志をなくさせていると思われます。
SCP-4311に対しては、『間抜けで、おバカなケダモノ。』、『なんて自分勝手。』、『私がいなければ無価値のくせにね。』と事あるごとに否定していますが、これは相手の自信をなくさせるためだと考えられます。そのうえで、「私」の言うとおりにすればいいんだよと語りかけることで、自ら考えることを放棄させ、ただ従順でいるように仕向けていると思われます。
そのために『いつも君を信じている』、『ぜーんぶ君のためだよ。』、『愛してる』と親身な風を装い、優しい言葉をかけて、飴を与えているのです。
また「私」は、『おうちもお友達も集めたゲームも。全部壊しちゃった。』、『君はたくさんの人を殺したんだよ』とSCP-4311を責めますが、これも相手に罪悪感を植え付け、その行動をコントロールするための手段だと考えられます。
嫌悪感を催す収容方法ですが、SCP-4311は最後、返事をしてないことから、まだ完全なコントロール下にあるわけではないようです。はたして財団は収容を維持できるのでしょうか。
おわりに
SCP-4311 – 私は君を大切にするよ。でした。SCP-4311の境遇には同情を禁じ得ません。
ところで「私」の行動は収容するための意図的な行動だと解釈しました。ですが、もしそうではなく、SCP-4311を本当に愛するが故の行動であったとしたらどうでしょうか?本作のメタタイトル、私は君を大切にするよ。という言葉が「私」にとって嘘偽りない本心を述べたものであったとしたら……。
最後までお読み頂きありがとうございました!
http://scp-jp.wikidot.com/scp-4311
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