前回の更新から大分経ってしまいましたが、更新を再開します。今まで当サイトではTanhony氏のSCP作品を記事(SCP-5000 – どうして?内容整理と考察、SCP-5034 – 肉の天使たち 紹介&考察)にしてきました。Tanhony氏の作品はその多くが不可解な謎と恐怖に満ちています。
今回はそんなTanhony氏の作品の中から、SCP-5683 – 「僕のお部屋に来ないかい?」クモがハエに呼びかけたを紹介&考察してみます。
SCP-5683
このSCP記事の冒頭部分は通常と異なり、O5-7からクリスチャンセン博士に送られたメッセージとなっています。
メッセージによると、O5評議会はサイト-04管理官を選出しようとしており、O5-7はその候補者であるクリスチャンセン博士にSCP-5683の問題を解決して、実力を証明してほしいと指示しています。
クリスチャンセン博士は終末時計プロジェクトで成功を収めており、O5評議会の会議でもその名前が好意的に取り上げられたそうです。
ここまでは特におかしな部分はありませんが、最後に22122592と謎の数字が書かれています。これはいったいなんでしょうか……。
メッセージの後に通常の報告書が始まります。
説明によるとSCP-5683は巨大なクモ型生物であり、高速再生と身体改造の能力を有しています。オブジェクトクラスはKeter。SCP-5683は全人類に対して極めて敵対的であり、大量虐殺を行うために常に収容違反を試みているそうです。
その攻撃手段は通常、下顎を用いての毒液の注入や、脚での刺突によって実行されます。
また、SCP-5683は危機的状況に置かれると素早く適応し、自身へのいかなる危険に対しても耐性を高めます。この適応は当該危険が存在しなくなるまで持続します。
極めて敵対的で再生能力と攻撃への耐性を持ち、収容違反を試みる……どこかで聞いたことがあるような特徴ですね……。そう、クソトカゲでお馴染みのSCP-682 – 不死身の爬虫類の特徴と酷似しています。これは何か意図があるのでしょうか?気になりますが続きを読みます。
SCP-5683は獲物を追い詰める際に基礎的な推論および計画能力を見せているものの、人間相当の知性は有していないと考えられています。
SCP-682は高い知能を持つとされるので、この点は違っていますね。
次は特別収容プロトコルを読んでみます。
特別収容プロトコル
SCP-5683は可能な限り速やかに無力化されるべきです。
収容違反の回数を減らすため、SCP-5683には鎮痛剤が絶え間なく投与されます。鎮痛剤の化学構造はSCP-5683が適応しないように常に調整されます。鎮痛剤でSCP-5683を無効化できなかった場合、収容チャンバーは直ちに塩酸で満たされます。
終了を試行する場合は、例外なくプロジェクト主任のクリスチャンセン博士の認可を受けなければなりません。
どこかで聞いたことのあるフレーズが出てきました。
「SCP-5683は可能な限り速やかに無力化されるべきです。」
これはSCP-682の特別収容プロトコルでの記述、
「SCP-682はできるだけ早く破壊しなければなりません。」
と意味するところはほぼ同じです。SCP-682報告書では、オブジェクトの危険性からSCP-682を終了しようとする財団と、しぶとく生き残り続けるSCP-682との攻防が描かれていました。
SCP-682は塩酸に漬けられた状態で収容されていましたが、SCP-5683に対しては鎮痛剤が絶え間なく投与され、SCP-5683を無効化できなかった場合、収容チャンバーは直ちに塩酸で満たされると書かれています。
これはもう確実にSCP-682を意識しています。よく見ればアイテム番号も682と下3桁が近いです。これは一体……?
補遺では終了命令について補足されています。
補遺5683-1 (終了命令): 頻繁に収容違反すること、ならびにSCP-5683の継続的収容によって財団資源の消耗量が増加していることから、SCP-5683の終了命令が下されました。終了は新プロジェクト主任であるクリスチャンセン博士が監督します。
以下はSCP-5683の終了試行とそれに関する議論のアーカイブです。
SCP-5683に終了命令が下された理由は、繰り返される収容違反への対応や収容を維持するためにコストがかかりすぎていたためでした。
ここで冒頭部分に書かれていたクリスチャンセン博士が取り組まなければならないSCP-5683の問題が判明します。それはSCP-5683を終了すること。以降はクリスチャンセン博士率いる財団職員たちによるSCP-5683終了に向けた試行が記録されています。
繰り返しになりますがやはりSCP-682報告書と類似しています。
SCP-5683の終了試行
最初の議論ログ5683-1では、新プロジェクト主任の紹介とSCP-5683の終了試行に関する最初の審議が行われていました。参加職員は、クリスチャンセン博士、マイルズ研究員、ホール研究員、シルヴァ次席研究員、エイデー警備主任の5名です。
クリスチャンセン博士は開口一番、 何か焦げ臭くないか?と皆に尋ねています。シルヴァ次席研究員によると、今朝早くに食堂で軽い事故があったようです。
妙なことを言っていますね。議題とは無関係に見えるやり取りですが……。
続けて、クリスチャンセン博士は職員たちにSCP-5683について、知っておくべき事はないか尋ねます。しかし役に立ちそうな意見はなくクリスチャンセン博士はため息をつきます。クリスチャンセン博士はSCP-5683の組織サンプルを用いてストレステストを行い、それから実際に本物で試行することを提案。職員たちは焼却による終了を試みます。
終了ログ5683-1
刺激: 850 ℃で30秒間焼却する。
組織サンプルでの結果: サンプルは再生せずに成功裏に焼却される。
SCP-5683での結果: 30秒間熱を加えると、SCP-5683がのたうち回って金切り声を上げる。その後、SCP-5683が未知の物質で覆われた装甲メッキを発現させ、燃焼を防止する。
最初の終了試行は、サンプルの焼却には成功したものの、未知の物質で覆われた装甲メッキが発現し、試行は失敗しました。この装甲メッキは、説明に書かれていた身体改造の能力で作られたようです。
SCP-682の終了実験を地で行く展開です。無事に終了できるのでしょうか?
議論ログ5683-2
最初の終了試行が失敗に終わり、再びSCP-5683の更なる終了試行についての議論が行われました。メンバーは前回と同じです。
またしてもクリスチャンセン博士は開口一番、悪臭がすると言っています。今回も食堂で何かあったのでしょうか?今回も我慢せざるを得ないようです。終了試行についてはシルヴァ次席研究員は「残念ながらアレは、予想通りでした。」と意見を述べ、クリスチャンセン博士は基準を確立するためのテストだったと答えています。
クリスチャンセン博士は、O5評議会に連絡を取り、終了の手助けとなる異常物質の使用をいくつか要請したと話します。この物質は博士によると”収容に値するほどの異常性は無いが、我々の助けになるほどの異常性”を有する物質であるようで、具体的にはY220とY835とY436と呼称される物質を用いるようです。
博士は、”どれか一つで十分だとは思うが、両面作戦を取るのが最善だ。このクモはあのトカゲほどじゃないとでも言っておこう。”とコメントします。
シルヴァ次席研究員は微笑み、
”あのトカゲに携わっていたのですか、博士? 差し支えなければ、それはいつのことだったか教えていただけますか、博士?”と尋ねます。するとクリスチャンセン博士は数年前に収容違反に立ち会ったことを話し、アレは快くなかったと答えます。
クリスチャンセン博士とSCP-682に接点があったことが判明します。財団で「あのトカゲ」といえばSCP-682ですね。SCP-5683とSCP-682との類似には何か意味があるのでしょうか……。
クリスチャンセン博士は話を戻し、”とにかく、Y220とY835とY436だ。記録を頼む。”と述べると、職員たちは
シルヴァ次席研究員: 大変良いチョイスですね、博士。
ホール研究員:素晴らしい仕事ぶりだ。
マイルズ研究員: お見事。
と何故か妙にクリスチャンセン博士を褒め称えていました。そういえば、ログをよく読むとシルヴァ次席研究員はことあるごとに”いいですね、博士。”と博士に賛意を示しています。
終了試行を見てみます。
終了ログ5683-2
刺激: Y220
組織サンプルでの結果: サンプルが成功裏にガラスに変化し、激しく破裂する。
SCP-5683での結果: 9秒以内にSCP-5683の身体の80%がガラスに変化し、激しく破裂する。SCP-5683の再生速度が上昇し、30秒後に完全に回復する。
終了ログ5683-3
刺激: Y835
組織サンプルでの結果: サンプルが2体の独立した生物に分裂し、互いに毒液を注入し合って殺害する。
SCP-5683での結果: SCP-5683が2体 (SCP-5683-1とSCP-5683-2) に分裂し、互いに毒液を注入する。SCP-5683-2はほぼ即座に死亡したものの、SCP-5683-1は毒液に対する免疫を獲得して生存する。その後、SCP-5683-1がSCP-5683-2を摂取し、失った質量を取り戻す。
終了ログ5683-4
刺激: Y436
組織サンプルでの結果: サンプルが霧状に変化する。
SCP-5683での結果: SCP-5683が霧状に変化し、施設内の照明が全て消える。3秒後に照明が復旧すると、SCP-5683は完全に再生していた。
見事に失敗しています。続いては議論ログ5683-3です。
議論ログ5683-3
メンバーは前回と同じです。クリスチャンセン博士は明らかに失敗続きでかなり苛立っており、椅子を蹴って八つ当たりしています。シルヴァ次席研究員はクリスチャンセン博士をなだめようとしています。クリスチャンセン博士は新たにY910を使用するつもりのようですが、「それで大丈夫なのですか?」と職員たちは良い反応を示しません。
その様子からはY910の危険性が伺えますが、Y910はGOC(世界オカルト連合、正常性を維持するために異常なオブジェクトの破壊に重点を置く要注意団体)が有毒な神に対して使用する異常物質だとクリスチャンセン博士は話します。職員たちには「絶対に大丈夫だ。でかいクモの1匹ぐらい片付けられるだろうよ。」と断言します。
シルヴァ次席研究員は「しかし博士……」と何か言いたげですが、クリスチャンセン博士は「しかしもへったくれもない!」 と発言を制止します。さらに「それにもう一つある。組織サンプルでのテストはせん! O5がもうすぐブレイを改任させるんだ、ダラダラと過ごして時間を無駄にするつもりはない!」と無謀な宣言をします。
こう言うとクリスチャンセン博士は、自分でも無茶を言っている自覚があるのか、「私がこの決定の全責任を取ろう。」と話します。シルヴァ次席研究員が「全責任を取るのですか、博士?」と問うと、クリスチャンセン博士は「例え上手くいかなくとも、答えはイエスだ」と答えます。シルヴァ次席研究員は「いいですね、博士! いいですねえ!」”と妙に興奮した反応を示します。
失敗するフラグが立ちまくっていますが終了ログを見てみます。
終了ログ5683-4
刺激: Y910
SCP-5683での結果: 活発になる。収容違反が進行中。
さっそくフラグ回収です。失敗どころか、収容違反が発生してしまいました。
以下ログが始まります。ここからはすべて引用します。
<ログ開始>
(クリスチャンセン博士とシルヴァ次席研究員が安全バンカーに走り込む。クリスチャンセン博士がドアを封鎖し、壁に向かってうなだれる。)
クリスチャンセン博士:(静かに)これは夢だ。これは夢なんだ。
(沈黙。クリスチャンセン博士が顔を上げ、匂いを嗅ぐ。)
クリスチャンセン博士:何だ、何の匂いだ?!
シルヴァ次席研究員:アイツが…… アイツがリアクターに辿り着いたに違いありません、博士。本当に申し訳ありません博士、これは私のせいです。
クリスチャンセン博士:お前のせいだと? 何故そうなる? 何をした?
(沈黙。クリスチャンセン博士が立ち上がる。)
クリスチャンセン博士:一体何をしでかした?!
シルヴァ次席研究員:わ…… 私の仕事は、博士、私の職務は、私が — 私が賢明でないと判断した行動に反対することです。貴方にはそれをしませんでした、博士。申し訳ありません。
クリスチャンセン博士:そうか。そうだな!
(クリスチャンセン博士がシルヴァ次席研究員に近付き、胸を指でつつく。)
クリスチャンセン博士:貴様が職務を全うできなかったせいで何人死んだと思っている? 貴様が嫌がったせいで?
シルヴァ次席研究員:(泣きながら)申し訳ありません、博士。申し訳ありません、博士。ですが…… それは貴方のほうですよ、博士! 貴方はY910を使いたがっていた! どうせ聞く耳を持たなかったでしょう、博士!
(沈黙。)
クリスチャンセン博士:(静かに)私をスケープゴートにしようとしているのか、シルヴァ?
(シルヴァ次席研究員が首を振る。)
シルヴァ次席研究員:(泣きながら)違います…… 違います、博士…… ですが手順というものには、博士、理由が — 理由があるんですよ。組織サンプルには…… 貴方は認めないといけません、少しでも —
クリスチャンセン博士:(静かに)ここから出たら、ここで起こったことの真実を評議会にぶちまけてやる。貴様がしでかしたことの真実を。
シルヴァ次席研究員:しかし……
クリスチャンセン博士:その薄汚い口を閉じろ、シルヴァ。
(沈黙。)
シルヴァ次席研究員:しかし博士、お言葉ですが、それは不可能だと思います。
クリスチャンセン博士:どういう意味だ?
シルヴァ次席研究員:このチャンバーは、博士…… ここはリアクターの過負荷を乗り切れるほどの強度は全くないのです、残念ながら。
(クリスチャンセン博士が後ろによろめき、頭を抱える。)
クリスチャンセン博士:クソが。駄目だ、駄目だ駄目だ、畜生。
(沈黙。シルヴァ次席研究員が部屋の隅に座る。)
シルヴァ次席研究員:私がここに連れて来るべきではなかったんです、博士 —
クリスチャンセン博士:ああ、そうすべきじゃなかったな。
シルヴァ次席研究員:— しかし、これは貴方の数えきれない功績に敬意を表してのことですが、博士、貴方は…… 何らかの個人的責任を認めなければなりません。
(クリスチャンセン博士がシルヴァ次席研究員の方を向く。)
クリスチャンセン博士:(叫んで)いいから黙れ!誰かのせいだと言うのをやめろ! 一体どうしたというんだ?!
(大きな騒音がバンカーのドアに響く。クリスチャンセン博士が甲高い声を上げ、背後の壁に後退する。)
クリスチャンセン博士:来るな、来るな来るな! 頼む!頼む!
(シルヴァ次席研究員がクリスチャンセン博士の前方に立つ。バンカーのドアが裂けて開き、その向こう側で佇むSCP-5683の姿が露わになる。SCP-5683が金切り声を上げながら中に進入する。)
シルヴァ次席研究員:博士、ここは — ここは私が引き付けます! 逃げてください!
(沈黙。)
(クリスチャンセン博士がSCP-5683に向かってシルヴァ次席研究員を押しやり、逃げる準備をする。)
(SCP-5683が消失する。)
クリスチャンセン博士:な — あ — えっ……?
(シルヴァ次席研究員がクリスチャンセン博士に向き直る。)
シルヴァ次席研究員:失望しましたよ、博士。心底失望しました。
クリスチャンセン博士:何?
(マイルズ研究員、ホール研究員、エイデー警備主任が、引き裂かれて開いたドアを通ってバンカーに進入する。クリスチャンセン博士が再び背後の壁に近付く。)
クリスチャンセン博士:何が起きている? 5683に何があった?
シルヴァ次席研究員:残念ですが博士、役割を果たした人形を周りに置いておく理由はほとんどありませんよ。
クリスチャンセン博士:や…… 役割? 何を言っているんだ?!
シルヴァ次席研究員:代理としての役割ですよ、博士。
(沈黙。)
クリスチャンセン博士:一体……
シルヴァ次席研究員:トカゲに携わったとおっしゃいましたね、博士。収容違反があったとも。お気に障らなければ、どうやってその状況から逃げ出したのか教えていただけますか? かなり致死的だったようですが?
(沈黙。)
クリスチャンセン博士:……ここはどこなんだ?
ホール研究員:無意味な質問はやめろ。
マイルズ研究員:答えが分かっている質問はやめろ。
(沈黙。クリスチャンセン博士がシルヴァ次席研究員の方を向く。)
クリスチャンセン博士:(しわがれた声で)お前たちは何者なんだ?
シルヴァ次席研究員:審査員ですよ、博士。貴方を審査する者です。そして残念ながら、貴方はまたしてもひどくみっともない姿を晒したようですね。
(沈黙。)
シルヴァ次席研究員:何かハッキリさせたいことはありますか、博士?
クリスチャンセン博士:(静かに)私はどれほどの時間ここにいるんだ?
シルヴァ次席研究員:かなりの時間ここにいますよ、博士。
クリスチャンセン博士:私は……あとどれくらいここにいるんだ?
シルヴァ次席研究員:貴方が責任を取るまでです、博士。
(クリスチャンセン博士が震えながら部屋の隅に移動する。)
クリスチャンセン博士:これは…… これは私のせいだ。
マイルズ研究員:口ではそう言うが、心からそう思ってはいない。
ホール研究員:その言葉は心からのものではない。
(沈黙。)
クリスチャンセン博士:頼む。私が悪かった。
エイデー警備主任:問題なければ本題に入りましょうよ。
シルヴァ次席研究員:もちろんですとも。
(沈黙 — その後、クリスチャンセン博士が開いたドアに向かって走る。しかしドアに辿り着く前に、黒い鉄製の鎖が角を曲がった所から出現し、クリスチャンセン博士の喉に巻き付く。)
クリスチャンセン博士:嫌だ、やめろ、やめろ! 悪かった!私が悪かった!
(鎖がクリスチャンセン博士をドアから引きずり出し、角を曲がった所に極めて高速で引き寄せる。鎖は角を通過する度にクリスチャンセン博士を壁に叩きつけるように移動し、博士を収容施設から引きずり出す。)
クリスチャンセン博士:私のせいじゃない! 私のせいじゃない!
(床も壁も既に消失しており、裏にあるものが露わになっている。沢山の血がある。沢山の火がある。沢山の苦しみがある。ひどい悪臭がする。)
(笑い声。)
(笑い声。)
(笑い声。)
(クリスチャンセン博士が悲鳴を上げ始める。そしてそれが止むことは決してない。)
<ログ終了>
……。
予想外な展開でした。あわやクリスチャンセン博士万事休すかと思いきや、突如SCP-5683が消失。呆気にとられていると、突然部下であったはずの職員たちが集まり、我々は審査員だと述べ、クリスチャンセン博士は鎖に引きずられて、笑い声と悲鳴だけが残されました……。いったい何が起きたのでしょうか?
SCP-5683報告書には続きが書かれています。
メッセージ受信日:2020/02/01
件名:改めておめでとうございます
クリスチャンセン博士へ
終末時計プロジェクトで成功を収めたこと、改めておめでとうございます。とても素晴らしい偉業であり、前回の会議でも貴方の名前が間違いなく好意的に取り上げられていました。
この前の会話での質問にお答えしましょう — その通りです。我々はブレイ博士の引退後のサイト-04管理官に相応しい候補者を今も探しています。リストには貴方の名前が載っていますが、最終判断を下す準備ができる前に、評議会としてはもう少し実力を証明してほしいとも願っています。
SCP-5683の問題を解決してもらいたいのです。任務は既に与えられています。
無事を願っていますよ。
O5-7
22122593
これは冒頭部分に書かれていた文面とほぼ同じです。しかし最後の数字が少し異なっています。冒頭では22122592でしたが、こちらでは22122593と1つ数が増えています。これは何を意味しているのでしょうか?
数字の謎
その答えはSCP-5683のメタタグに書かれていました。それはループです。増えた数字とループというメタタグ、職員たちのセリフから、以下のような結論が得られます。
それは、数字はループの回数を表しており、クリスチャンセン博士はメッセージを受け取った場面から何度もループしているということです。22122593という数字はクリスチャンセン博士が新たに2212万2593回目のループに突入したということを表していると考えられます。
つまりクリスチャンセン博士は途方もなく長い時間をループに囚われていたのです。
クリスチャンセン博士とシルヴァ次席研究員の次の会話
クリスチャンセン博士:(静かに)私はどれほどの時間ここにいるんだ?
シルヴァ次席研究員:かなりの時間ここにいますよ、博士。
これはクリスチャンセン博士がループに長時間囚われていることをはっきりと示しています。
また、それに続く次のシルヴァ次席研究員の言葉は、クリスチャンセン博士が責任を取るまでこのループが続くということを示しています。
クリスチャンセン博士:私は……あとどれくらいここにいるんだ?
シルヴァ次席研究員:貴方が責任を取るまでです、博士。
数字がループの回数だということはほぼ間違いないでしょう。では何故クリスチャンセン博士はループに囚われているのでしょうか?そもそもクリスチャンセン博士はどこにいるのでしょうか?
クリスチャンセン博士はどこにいるのか?
それは煉獄だと思われます。
煉獄はキリスト教カトリックの教義において、死後、地獄に落とされるほどではないものの罪を抱えた死者の霊魂が、生前の罪を浄めるための罰として苦しみを受ける場所です。
キリスト教における地獄が、罪を犯した者が永遠の苦しみを受ける場所であるのに対して、煉獄は一時的に苦しみを受ける場所であるとされ、浄罪が終われば天国に行けるそうです。また煉獄で過ごす期間はそれぞれの罪に応じて異なり、最後の審判が行われるその時まで煉獄で過ごすこともあり得るようです。
クリスチャンセン博士の置かれている何度も繰り返される状況は、クリスチャンセン博士が生前、なんらかの罪を犯したために死後煉獄に送られ、繰り返し罰を受けていると考えると説明がつきます。
クリスチャンセン博士の罪とは
クリスチャンセン博士の罪、それは職員たちとの会話から推測できます。
シルヴァ次席研究員: トカゲに携わったとおっしゃいましたね、博士。収容違反があったとも。お気に障らなければ、どうやってその状況から逃げ出したのか教えていただけますか? かなり致死的だったようですが?
このセリフはクリスチャンセン博士が収容違反で死んだことを示していると思われます。おそらく生前のクリスチャンセン博士はSCP-682の終了試行を監督しており、今回のSCP-5683と同じく無謀な終了試行を行い、その結果、SCP-682の収容違反を招き、財団職員の多数と共に死亡したのではないでしょうか?
SCP-5683のログが生前のクリスチャンセン博士の行動に沿ったものであるなら、クリスチャンセン博士は部下の職員を犠牲にして自分だけ助かろうとしたとも考えられます。
クリスチャンセン博士はSCP-5683に襲われそうになった際に、身を挺して逃がそうとしたシルヴァ次席研究員を、あろうことか押しやり、逃げようとしました。
クリスチャンセン博士に下されたSCP-5683の終了試行は、クリスチャンセン博士が自身の責任により被害を出したことを認め、真摯に改悛しているかを確かめるために煉獄が生じさせた試練であると思われます。
シルヴァ次席研究員は自分たちを審査員であると言っていましたが、彼らはクリスチャンセン博士が悔い改めているかどうかを審査する者たちだったのです。
審査員は原文ではJuryとなっています。Juryの基本的な意味は陪審員団です。陪審員は裁判において被告が有罪か否かを評決します。このことからもシルヴァ次席研究員たちがクリスチャンセン博士を煉獄から解放するか否かを判定していると考えられます。
しかし、クリスチャンセン博士は収容違反を起こし、部下の職員を犠牲にして自分だけ助かろうとしたため、再び罰を受けたのでしょう。シルヴァ次席研究員が言うように「貴方が責任を取るまで」浄罪は終わらずクリスチャンセン博士は苦しみ続けるのです。
ログの終わりに書かれていた以下の記述も、クリスチャンセン博士のいる場所が煉獄であることを示していると思われます。
(床も壁も既に消失しており、裏にあるものが露わになっている。沢山の血がある。沢山の火がある。沢山の苦しみがある。ひどい悪臭がする。)
罪人の血、火、苦しみに満ちており、ひどい悪臭か漂う――苦しみを受ける場としては申し分ないです。議論ログでクリスチャンセン博士がしきりに悪臭がすると言っていたのは、この悪臭のことであったと考えられます。
また火に関しても、カトリックでは煉獄にいる死者の霊魂は火によって浄罪されると考えられていることとも一致します。
そもそもクリスチャンセン博士と言う名前自体も博士が煉獄にいることを裏付けていると思われます。クリスチャンセンは原文ではKristiansenとなっており、これはChristiansenのスペル違いです。その意味はキリスト教徒の息子(son of Christian)です(参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Christiansen)。
この名前は暗にキリスト教との関連を示していると思われます。
クリスチャンセン博士が罪を認め、心から償うまで、博士は苦しみ続けるのです。
SCP-5683とは何か?
SCP-5683の内容については以上ですが、クリスチャンセン博士のいる場所が煉獄であるとすると気になる点が1つ出てきます。
このSCP-5683報告書は誰が作成したのでしょうか?
基本的にSCP報告書は通常なら財団職員により作成され財団のデータベース上に保存される筈です。しかしながらSCP-5683は、シルヴァ次席研究員が「役割を果たした人形」、「代理としての役割」だと言っていたように、煉獄で苦しみを受けるクリスチャンセン博士の前に現れたいわば幻覚のようなものであり、クリスチャンセン博士本人だけが体験している現象を財団職員が認識し、報告書を作成することは何か異常な手段を用いない限り不可能です。
現実の財団職員がSCP-5683報告書を作成したのではないとすると、考えられる結論は2つです。
ひとつはSCP-5683報告書はあくまでSCP財団というシェアードワールド創作サイトに作者であるTanhony氏によって書かれた作品であり、設定の矛盾はフィクションとして気にしないという捉え方です。
しかしこの考えは身も蓋もなさ過ぎるため、もうひとつの結論を今回の記事では述べたいと思います。
もうひとつは財団のデータベース上のSCP-5683スロットに今までに見てきたこのSCP-5683報告書が勝手に書き込まれ、さらに追記等の編集が行えなくなったために、財団のデータベース上にSCP-5683報告書が存在しているというものです。
具体的には、おそらくクリスチャンセン博士に罰を与えている存在が自身の存在を示すために異常な手段で財団のデータベース上に書き込んだのではないかと思われます。
これまでクリスチャンセン博士がいるのは煉獄だと考えてきました。この書き込みを行った存在は煉獄なのでしょうか?
その可能性は否定できませんが、煉獄自体は死者の霊魂が浄罪するための場所であり、意志を持った知的な存在ではありません。仮に意志があったとしても、わざわざ財団のデータベース上で財団職員に向けて自身の存在を周知させることが死者の霊魂の浄罪に繋がるとは考えにくいです。
一応あり得そうな解釈として、自身の存在を周知させることで罪を犯さぬよう警告しているという可能性はありますが、もしそれが理由であるなら財団職員のみが知る財団のデータベースではなく、大衆に周知されやすいテレビやネットなどのメディアを使うはずです。
したがって書き込みを行ったのは煉獄ではないと思われます。しかしながら今まで見てきたように、クリスチャンセン博士がいるのは煉獄のように思えます。
この矛盾を解消する解釈がひとつあります。それは書き込みを行った存在は煉獄を模倣した別の異常存在であるという解釈です。
クリスチャンセン博士がいるのは煉獄であると述べましたが、実はその場所が煉獄であるとするとやや違和感が生じる部分がありました。
煉獄は浄罪のための場所ですが、その審査員であるシルヴァ次席研究員や他の職員の態度にはあざ笑うかのような悪意が感じられます。
まるでクリスチャンセン博士が苦しむことを期待し、苦しむ姿を見て楽しんでいるかのようです。
クリスチャンセン博士が危険なY910の使用を決め、サンプルによる試験を省くとした際に、全責任を取ると宣言すると、シルヴァ次席研究員は喜んでいるかのように「いいですね、博士!いいですねえ!」と答え、クリスチャンセン博士が退出すると笑い声が起きています。
さらにログの最後にも笑い声が溢れています。それは鎖で引き回されるクリスチャンセン博士を見てあざ笑うかのようです。煉獄が死者の霊魂の浄罪の場であるなら、それを楽しむかのような審査員たちの振る舞いは場違いに思えます。
この異常存在は煉獄を模倣していますが、それは死者の霊魂のためではなく死者の霊魂に罰を与え、その様を楽しむためのものであるようにも思えます。この異常存在は財団に対して悪意のある実体なのではないでしょうか?財団のデータベースに書き込みを行うことで、自らの存在を財団職員に愉快犯的に知らしめているように思われます。
SCP-5683のメタタイトル、『「僕のお部屋に来ないかい?」クモがハエに呼びかけた』は1829年に出版された、イギリスの詩人メアリー・ハウイットによる『The Spider and the Fly(クモとハエ)』という英語圏で有名な詩の冒頭の一文です。内容は、蜘蛛が甘い言葉で餌である蠅を巣に誘い込むというストーリーで、甘い言葉には裏があることを警告する訓話になっています。
このメタタイトルは昇進の話に釣られ、SCP-5683終了試行を請け負ったクリスチャンセン博士と、博士を狙った害意ある存在を示しているように思います。
本来、煉獄にいる死者の霊魂は浄罪が終われば天国に行けることになっています。しかし、2212万2592回という気の遠くなるような時間をかけても、クリスチャンセン博士はまだ解放されていません。クリスチャンセン博士が解放される日は来るのでしょうか……?
おわりに
SCP-5683でした。急展開に驚き、結末で更なる恐怖を感じる面白い作品でした。最後までお読み頂きありがとうございました!
http://ja.scp-wiki.net/scp-5683
アイキャッチ画像を除くこの記事の内容は『クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンス』に従います。
コメント
お久しぶりです!面白かったです
なるほど、メタタイトルを見るとたしかに悪意のある異常存在のように思えますね
ご無沙汰していました。コメントありがとうございます!
久々の投稿で少し不安でしたが、そう言って頂けて嬉しいです。