“私は忘れない” Class of ’76作品、SCP-4833 – 失神交響楽 紹介と考察

SCP紹介&内容整理
この記事は約42分で読めます。

76年シリーズこと、Class of ’76の新作SCP、SCP-4833 – 失神交響楽が今年の2月8日に翻訳されました。失神交響楽はClass of ’76の背後に見え隠れする謎の集団ですが、ついにSCPとして登場しました。今回はこちらの作品を紹介、考察したいと思います。

果たしてClass of ’76や失神交響楽の謎は明らかになるのでしょうか……?

Class of ’76については以下の記事をご覧下さい。

http://scpnote.com/archives/5969848.html

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SCP-4833 – 失神交響楽

SCP-4833 – The Syncope Symphony
原著者 Tufto
http://www.scp-wiki.net/scp-4833
作成年:2019
翻訳者 C-Dives
http://ja.scp-wiki.net/scp-4833
作成年:2019

それではSCP-4833について見ていきます。今回の記事は冒頭に物語調の文章が書かれています。内容としては昇進したての財団職員が、ある記録を見始めた場面が描かれています。その記録が今回のSCP-4833の報告書です。

報告書はレベル5/4833機密情報と指定されています。レベル5セキュリティクリアランスは基本的にはO5に与えられるものであるため、報告書を読んでいるのは財団トップであるO5に昇進した誰かであると考えられます。このO5メンバーはSCP-4833に長年興味を抱いていたものの、今までの権限では知ることができなかったと書かれています。

通常と異なるフォーマットです。それでは、特別収容プロトコルを見てみます。

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特別収容プロトコル

特別収容プロトコルは以下のようになっている。

SCP-4833の活動は現在、機動部隊イータ-11“獰猛な獣たち”によって監視されている。イータ-11は報告された全ての事案に速やかに対応し、状況を確認し、潜在的な異常の収容を試みる。

記憶処理部門による最近の発見から、SCP-4833の性質は根本的に変化したものと見做されている。エージェント ホーソーンの報告が完了次第、SCP-4833は再分類され、ファイルは更新される予定。

SCP-4833は再分類され、ファイルは更新予定となっています。それでは説明を見てみます。

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説明

SCP-4833は、通常“失神交響楽”の名称で活動している、現実改変能力者の組織化された集団。オブジェクトクラスはKeter。SCP-4833は10~29名の人物で構成されており、その全員が類似の能力や特性を示すと考えられている。

“失神交響楽”は現実改変能力者の集団だったようです。

その主な活動は、15~18歳の青少年を対象とする、未知の目的のための異常な改変を意図した実験で、1940年代後半から始まった。40年代後半以降に多数の人物を誘拐、強制改造し、異常事態の重大な発生要因であったが、近年、その影響力は著しく減退している。

上記以外の点で、SCP-4833の目的、手口、基本的性質は殆ど知られていない。SCP-4833は自ら画策した事件を通して間接的にしか財団エージェントと遭遇していない。数名の生存者から得られた証言は、SCP-4833の最終目標が“調和の状態state of harmony)の確立であることを示しているが、それが何を意味するかは不明。

失神交響楽はその名の通り、音楽と関わりの深い集団であることが今までのSCPやTaleでも描かれています。ハーモニーという言葉はClass of ’76のTale、思い出幕間1:古い学校思い出:パート2にも出てきます。

SCP-4833の異常特性は記憶と音楽を中心に展開される。財団が遭遇した事例の大部分において、彼らは管弦楽団または楽器店のどちらかの形式で現れている。

ここの記述は、これまでのClass of ’76シリーズにおける失神交響楽の特徴を説明しています。

記憶についてはClass of ’76では、記憶の改ざんを受け高校最後の夏休みの思い出にふけるようになるポラロイド写真SCP-1423 – 76年,夏」や、キャンプ・ニムロッドというサマーキャンプで過ごした記憶が植え付けられる「SCP-3776 – キャンプ・ニムロッド」、非常に強力な認識災害が記憶を思い出せと働きかける「SCP-2316 – 校外学習」など記憶に関する異常性が多く出てきます。

そして、音楽に関しては、SCP-332 – 1976年度カーク・ロンウッド高校マーチング・バンドに書かれているSCP-332-A事件では、SCP-332の使用する全ての楽器に“失神交響楽”という言葉が刻まれていました。また、思い出:パート1には”失神交響楽”と呼ばれる楽器店が出てきます。

SCP-332-A事件は”失神交響楽”によるものと見られる被害の大きな最大の事件です。カーク・ロンウッド高校、1976年度のマーチング・バンドの生徒たちが、SCP-332と指定されています。このSCPにより演奏された曲を聴くと、影響者は演奏に参加し死ぬまで演奏を続けようとします。

この事件によりカーク・ロンウッド高校の生徒・職員の40%が死に至りました。この事件に関してはTale、思い出で描かれています。

SCP-4833構成員の目撃者は例外無く彼らが“仮面を付けて”いると述べる。しかしながら、このような目撃者は全員が忘却効果に曝されているため、更なる詳細は不明確。

“仮面を付けて”いるという特徴はSCP-4833で初めて出てきた情報です。また、目撃者全員が忘却効果に曝されるという情報も初めてです。

SCP-4833は1970年代半ばに初めて財団の注目を集めた。間もなく、SCP-4833の調査と追跡を明確な目標に掲げた専門機動部隊が設立された。この機動部隊は今日までSCP-4833構成員の追跡には成功していないものの、SCP-4833のより広範な活動を収容するのに役立つ情報を数多く提供している。

SCP-332-A事件は、財団のエージェントにより無力化されましたが、この事件をきっかけに財団も”失神交響楽”の調査を開始したようです。

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SCP-4833のタイムライン

    1947年: SCP-4833の活動が始まったと考えられる。青少年が世界各地で誘拐され始めるが、とりわけイエローストーン国立公園の近傍に被害が集中している。

    1964年: 最初の集団実験がアイダホ州ボイシで行われる。世界オカルト連合をはじめとする様々な組織からの圧力により、SCP-4833は███████州████████郡に主要活動拠点を移転したと考えられる。

    1969年: SCP-4833は[編集済]の町に“失神交響楽”という名の楽器店を開く。当初、異常な活動は発生しなかった。

    これは思い出:パート1に出てきた楽器店を指しているようです。

    1975年、秋: 集団認識災害事件が███████████湖で発生。この事件をSCP-4833と関連付ける決定的な証拠は発見されていないが、異常存在の性質はSCP-4833の手口と一致している。

    こちらはSCP-2316 – 郊外学習ですね。

    1976年: SCP-4833による一連の実験がカーク・ロンウッド高校および███████高校で行われる。問題の高校と町には速やかに避難措置が取られ、財団の制御下に置かれる。“失神交響楽”楽器店は財団が襲撃した時点で既に放棄されていた。

    SCP-332とSCP-1833 – 76年度同窓生です。

    1977年: SCP-4833に誘拐された人物の数は1976年と比較して急激に減少し、今日に至るまでその傾向が続いている。超常コミュニティにおいて、これはSCP-4833が1976年の何処かの時点で目標を達成したためであり、その後の誘拐は単なる“微調律”の一種に過ぎないと推測されている。

    活動が急減したというのは思い出での描写と一致します。

    1988年: 財団職員とSCP-4833に改造された人物の、2019年以前の最後の既知の遭遇。

    2019年: 事案4833-8C(下記参照)。

    ここまではClass of ’76の過去作の内容を踏襲しています。続いては補遺を見てみます。

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    補遺4833-1: インタビューログ

    こちらは財団エージェント ジョン・ハードキャッスルが知人であるヴァシーリー・ストロガノフにインタビューした際の記録です。インタビューの日付は1988/11/09で場所はソビエト連邦、アルハンゲリスクのバーです。

    先ほどのタイムラインにあった”1988年: 財団職員とSCP-4833に改造された人物の、2019年以前の最後の既知の遭遇”はこのインタビューを指しているようです。

    ハードキャッスルはSCP-4833による実験の最初期の記録を調査し、ストロガノフが1940年代後半に”失神交響楽”による実験の対象となったことを確認。追跡の後にインタビューを行いました。インタビュー・ログの冒頭では、

    以下は、エージェント ジョン・ハードキャッスルと異常な現実改変能力者の交流の記録です。

    と書かれていることから、ストロガノフは”異常な現実改変能力者”であるようです。説明では“失神交響楽”は現実改変能力者の集団と書かれていました。

    実験の被害者が現実改変者であるということは、SCP-4833による実験は現実改変者を作るために行われたということでしょうか?

    インタビューでは、ストロガノフはハードキャッスルに失神のことを教えてほしいと言われ、答えることを頑なに拒みます。ハードキャッスルは食い下がり、報酬を提示しようとしますが”何も変わりゃしねぇよ”と答えています。

    ストロガノフはウォッカを一杯呷ると”この町をどう思う?”と尋ね、次のように語りました。

    この町はな、住民にとっては目立たねぇどころの話じゃない。ここら辺の数百マイルで最大の都市なんだ。だが西側から来た奴、世界地図を見てる奴からすれば、文明の最果てにある植民地に思える。お前が拠り所だと思ってるものは全部、果てしない海に散らばるただの小島だ。別のデザインが、最後のものよりデカいものが常に在る。あいつらは俺にそう言った、そして俺を見つけ出すだろう、ジョン。俺は何も話せない。

    そして、

    だが失神にはもう大した力は無いぞ。お前はそれを知ってたか? ここ数年で攫われた奴は殆どいない。あいつらは探してたものを見つけたんだ。あいつらを放っておけねぇのか? 俺たちに余計な手出しをしないでくれねぇか? 俺を寒さの中で死なせてくれ、ジョン。俺が惨めなゴミクズだってことを忘れさせてくれ。俺は戻りたくねぇ。

    と語ります。あくまでも答えを拒否するストロガノフに、ハードキャッスルは強硬手段をちらつかせます。するとストロガノフは、”マーシーってのは誰だ、ジョン?”と話し始めます。そして、この後の会話でこのインタビューは終了します。結果を先に言うと、以降の会話の後、ストロガノフは何らかの異常な能力(現実改変?)を発動させたようでハードキャッスルは死亡します。

    以下はその様子です。

    ストロガノフ: マーシーってのは誰だ、ジョン?

    エージェント ハードキャッスルは素早く身を引く。

    エージェント ハードキャッスル: ど — どういう意味か分からないね。止めろ。

    ストロガノフ: マーシー・グリーン。荒れ野で踊る村娘。お前もあの子も絶対にそんな日は来ねぇって分かってたはずの人生に備えた練習だった。お前は寄宿学校を抜け出してあの子に会いに行った。

    エージェント ハードキャッスル: や — やめてくれ —

    ストロガノフ: お前のファーストキス。お前は一緒に逃げようって話をした。でも親に見つかって引き離された。お前は17歳だった。人生最後の夏。

    エージェント ハードキャッスル: 僕は待つって言った…

    ストロガノフ: でもお前は待たなかった。お前は去った。あの子も多分そうだろうが、そこまでは俺にも見通せん。お前の頭の中のマーシーはただの影法師、本当の物語の切れっ端だけを語る弱々しいコピーだ。どうして戻らねぇんだ、ジョン? あ — 嗚呼、すまん。

    エージェント ハードキャッスル: 原っぱに戻らなきゃ…

    ストロガノフ: そ — そうだ。戻れ。すまねぇ、ジョン、すまねぇな…

    エージェント ハードキャッスルは倒れ、数秒間何事かを呟いた後に死亡する。ストロガノフは数秒間、無言で涙を流しながら、何も無い空間を見つめている。

    ストロガノフ: 俺はこうしなきゃならなかった。こうしなきゃならなかった。あいつらは俺の頭から絶対に出て行かねぇよ。あいつらがなりふり構わずそれを求めてるのが分からねぇのか? 自分が何をしたか分かってんのか?

    ストロガノフは頭を振り、固く目を閉じる。映像がちらつき、途絶する。

    <記録終了>

    読んだ限り、ストロガノフはハードキャッスルの若い頃の記憶を覗き、それを言葉にしているように見えます。ハードキャッスルは”原っぱに戻らなきゃ…”と答えた後死亡しますが、”どうして戻らねぇんだ”という台詞は、SCP-2316の隠し文章に出てくる”湖に戻るんだ”という言葉を連想させます。

    ストロガノフは涙を見せて謝っており、やむを得ずハードキャッスルを何かの能力で殺したというように見えます。ストロガノフのこの記憶の操作や対象の殺害を行う能力は、失神交響楽の構成員もその能力を有していると思われます。説明には失神交響楽の構成員全員が類似の能力や特性を示すとありました。

    インタビューの後には、このSCP-4833報告書を読んでいるO5メンバーによる物語調の文章が再び出てきます。

    O5メンバーはハードキャッスルを覚えていました。80年代後半、財団で働き始めたばかりの頃、彼はサイト-90にいたそうです。師にあたる人物でしたが、数ヶ月後に彼は姿を消し、異動になったと聞いたとあります。O5メンバーは1976年の頃を思い出しています。

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    補遺4833-2: 回収文書

    次の補遺は回収文書です。こちらは1997年に自殺したエージェント ヴァレリー・コワルスキーの私物から回収されたものです。文書はSCP-4833を調査する過程でエージェントによって編纂されたと書かれています。

    文書1

    文書1: マーシャル・カーター&ダーク社の輸送目録の1ページのコピー。1947年にアメリカに輸入された商品の詳細。

    日付 商品番号 商品 数量 価格 注記
    05/08 SS-13 フレンチホルン 1 $11,099 強力な忘却効果; 使用者が子供時代の重要な側面を忘れるように強制する。
    05/08 SS-14 書籍 “20世紀の幻想: 1940-1970年” 1 $1,120 異常性は無いが、有り得ないほどに正確な予測と、出版日以降に撮影されたことが判明している写真が収録されている。
    10/14 SS-15 試作“記憶処理”薬剤 30 $45,900 SCP財団“Q”施設より入手。
    10/14 SS-16 バスーン 16 $56,900 記憶復元効果あり。移植された記憶に対する実験が進行中。
    10/14 SS-17 イエローストーン公園観光ガイド、1970年版 1 $20,000 SCP財団“Q”施設より入手; “時間異常部門”のラベルが添えられている。
    11/19 SS-18 マリアナ海溝から回収された文書及び物品 7 $101,000 ダーク女史による追加情報は提供されていない。
    11/28 SS-19 木製バイオリン 1 $3,250 異常性は無いが、ユグドラシルの木材から作られているため、異常な改変の影響を極めて受けやすい。

    こちらのリストは要注意団体、マーシャル・カーター&ダーク社の輸送目録のコピーのようです。1947年にアメリカに輸入した商品について書かれています。マーシャル・カーター&ダーク社はロンドンに拠点をおく要注意団体で異常な物品を商品として取り扱い販売しています。

    この文書は、SCP-4833を調査していたエージェントが所持していたと書かれていました。SCP-4833の調査で見つかったということなので、これらの物品は失神交響楽がマーシャル・カーター&ダーク社から購入したものであると見られます。タイムラインによれば1947年は誘拐が始まった年でした。

    物品を見ていきます。商品番号のアルファベット2文字はSSとなっています。これは失神交響楽”Syncope Symphony”のイニシャルであると思われます。物品は楽器類、“記憶処理”薬剤、“20世紀の幻想: 1940-1970年”と”イエローストーン公園観光ガイド、1970年版”、そしてマリアナ海溝から回収された文書及び物品となっています。

    SCP財団にハマった読者であれば、このリストのイエローストーン公園マリアナ海溝から回収された文書を見てある作品が思い浮かぶと思います。それはSCP財団の有名作品、SCP-2000 – 機械仕掛けの神とそのTale、マリアナ海溝から回収された文書です。

    SCP-2000はKクラス世界終焉シナリオが避けられない事態となった時、即ち、世界が終焉を迎えようとした際に、世界の”再構築”を行うことが可能な施設です。”再構築”により世界の終わりをなかったことにして、人類の歴史を特定の年代からやり直すことができます。ゲームで例えるなら、ゲームオーバーになる前にリセットして直前からやり直せるということです。

    人類を破局から救うというその性質から、SCP-2000はThaumielに指定されています。Thaumielは危険なSCPまたはそれによって引き起こされる壊滅的な影響を無効化・回避する能力のあるオブジェクトに与えられる最高機密のオブジェクトクラスです。

    このSCP-2000の入り口はイエローストーン国立公園に存在しています。この公園に関するSCPにSCP-1422 – イエローストーンの怪があります。こちらは2007年7月9日以前は、Dクラス職員を含む財団の全職員がイエローストーン国立公園の存在を知ることができなかったという異常現象です。これはSCP-2000の情報を秘匿するためであった可能性があります。

    マリアナ海溝から回収された文書はSCP-2000を基にしたTaleです。こちらのTaleは終焉を迎えつつある世界の住民が書き残した文書という形式で書かれていて、SCP-2000を起動しようとする財団職員が登場します。文書の書き手は、この書き残した文書をロウで覆ったパイプに詰め、家の前に生じた渓谷の奥底に投げ込むつもりだと書いており、タイトルは再構築が成功して文書が回収されたことを示しています。家の前に生じた渓谷が再構築後にマリアナ海溝になったということだと思われます。

    この文書が存在するということは、必然的にSCP-2000により世界が”再構築”されたということを意味します。なぜマーシャル・カーター&ダーク社がこの文書を持っていたのかは不明ですが、財団に先んじて偶然回収していたのかもしれません。

    リストに戻ります。リストの楽器類はみな何らかの異常性を持っており、強力な忘却効果を持つフレンチホルン、記憶復元効果を有するバスーン(ファゴット)、改変の影響を極めて受けやすい木製バイオリンがリストに書かれています。これらは失神交響楽の実験に使用されたのだと思われます。“記憶処理”薬剤も実験に使用された可能性があります。

    リストに含まれていた書物に異常性はないようですが、注目すべきはその年代です。書籍のタイトルは “20世紀の幻想: 1940-1970年”と”イエローストーン公園観光ガイド、1970年版”と書かれています。これらは1947年にアメリカに輸入された商品であるにも関わらず、タイトルには1970年と書かれています。

    当時から見れば未来にあるはずのものが存在していたことになります。“時間異常部門”のラベルが添えられているのはこのためでしょう。通常なら有り得ない話ですが、もし世界が”再構築”されたのであれば、”再構築”前の世界に存在したものが残っていたと考えられます。

    それでは次の文書を見てみます。

    文書2・文書3

    文書2は1959年に財団施設“Q”から送られたメッセージ。

    メッセージはホロウェイ管理官からブラウン研究員に送られたもので、被検体BH12の様子を伝えている。文書の日付は1959/07/16。被検体BH12は自身の記憶がなく、1976年の学生であるという一貫した信念を抱いている。1954年以降に起きた出来事の正確な情報を提供する能力を欠く。最近注目された第二次世界大戦期の掩蔽壕の探査に病的な関心を示している。

    文書3: 財団施設“Q”で1968年の閉鎖時に収容されていた異常存在に関する、出所不明の報告書の抜粋。

    異常被検体1号は19歳男性。対象は異常な記憶改変能力を示した後に財団に拘禁された。対象は1966年の不明な時期に異常な改造を受けている。対象は改造者たちが“白いカーニバルのマスク”を着用していたと述べた。

    対象は時間改変が可能である; 1966年以前に知覚した出来事を具体的に変えることができるが、その程度は極めて限定されており、出来事の全体的な流れには最小限の改変しか及ばない。

    対象は自身が経験した改造実験以降の長期記憶の保持が不可能である。対象は現在がまだ1966年であると信じており、しばしば自身がまだ実験を受けている最中であると思い込む。

    時間異常部門による実験のためにサイト-107への移送を推奨する。

    異常被検体88号は36歳女性。対象は1949年に、認知機能を恒久的に損なうほどの顕著な異常改造を受けたと考えられる。

    対象はマリアナ海溝に執着する様子を示し、頻繁にそれが“世界の端っこから落っこちて”いると語る。特筆すべき事に、対象の声明は[編集済]と高い一致を示す。対象は改造実験以前にその存在を知られていなかった高度なピアノ演奏能力を有する。対象はピアノの演奏中は常に未知の言語(言語学者による分析はアルゴンキン語派、特にポタワトミ語との強い類似性を明らかにした。)で発話する。

    O5司令部は対象を即時サイト-01へ移送するように指示している。しかし、[編集済]生体解剖を巡る倫理委員会の異議のため、この指示は一時的に停止されている。

    異常被検体212号は死亡当時30歳の女性だった。1959年より拘禁。対象の記憶は、1976年から来たと主張する未知の17歳学生の記憶と完全に置換されている。しかし、対象による過去10年間の出来事の予測は完全に不正確であることが証明されている。対象は1960年代および70年代に、“ケネディ大統領”の暗殺や、アメリカ合衆国と“北ベトナム”と呼称される未知の国家(3世紀の趙王朝/ハノイ共和国との関連性アリか?)との間での戦争といった事件が起こるであろうと主張していた。

    対象は半径5m以内に接近した全ての無防備な人物に対する異常な記憶置換能力を帯びていた。対象は1969/10/09、施設“Q”が閉鎖されサイト・システムに統合される直前に、首吊り自殺しているのが発見された。遺書は発見されなかった。しかし、バイオリン、WW2期の掩蔽壕、未知のブランドの“スーパー8ミリ”フィルムカメラを描いた一連の鉛筆画が彼女の個室から発見された。これらは自殺の直前に描かれたものと思われる。

    ここに書かれている被検体は皆何らかの異常性を持つことから、失神交響楽に改造された人物であるようです。

    インタビューに登場したストロガノフは失神交響楽に改造された人物でしたが、彼は記憶の操作や対象の殺害を行う能力があったと見られます。異常被検体1号は限定的な時間改変、異常被検体212号は記憶置換能力を持っているようですが、これもストロガノフ同様、失神交響楽に改造されたことで身につけたと思われます。失神交響楽は現実改変者で構成されると説明にありましたが、もしかするとこの改造に成功した者が失神交響楽の構成員になれるのかもしれません。

    被検体には時間の異常が現れています。1976年の学生であると主張する被検体BH12や、異常被検体212号です。異常被検体212号に関しては、“ケネディ大統領”の暗殺(1963年)やベトナム戦争(1964年以降にアメリカが軍事介入)が起きるとこの被検体は予測していますが、財団側は”予測は完全に不正確”と結論づけており、“ケネディ大統領”の暗殺(1963年)やベトナム戦争はこの報告書が書かれた世界では起きていないようです。

    これもSCP-2000により世界が”再構築”されたことを表していると考えられます。以降はSCP-2000により世界が”再構築”されたという前提の基で読んでいきます。被検体は”再構築”される前の世界の記憶を持っていることになります。この記憶は誰の記憶なのでしょうか?

    続いては、文書4です。一見、意味不明ですが、SCP-2000により世界が”再構築”されたと考えると意味が見えてきます。

    文書4

    文書4: スーパー8ミリフィルムカメラから回収された映像の動画記録。1985年にアイダホ州の小洞窟で発見された。エージェント コワルスキーの所持品の中からは、映像から作成したと思われる静止画が発見された。これは増強処理( 1980年代後半に財団が開発した高度コプワルスキー-アージェント・テクノロジー)されている。

    <記録開始>

    00.00.00~00.00.43: 映像は未知の丘陵の斜面から始まる。風景はアメリカ中西部を連想させるものだが、配色はこの現実世界と大幅に異なっている。小規模な集落、もしくは町が丘陵の下に見える。この町は1970年代半ばのアメリカに存在した多くの町を連想させる。

    渦を思わせる形状の巨大な雲が町の上に見える。雲は断続的に赤と黒の色合いを呈する。数体の不明瞭な灰色の姿が雲から出現し、町に向かうのが見える。

    カメラの動きは、扱い慣れた人物が保持している場合と一致している。しかしながら、天候が著しい画面揺れを引き起こしている。

    00.00.43~00.08.54: 撮影者は丘を勢いよく駆け上がり始める。この場面は不鮮明で、詳細な点がはっきりしない。

    00.08.54~00.09.02: 撮影者が一瞬カメラを落とす。カメラを拾っている時、彼の姿が短時間映る — 10代半ばの白人男性、バイオリンケースを背中に括り付けている。1970年代に典型的な長髪だが、それ以上の詳細は明確に映っていない。

    00.09.02~00.11.12: 撮影者は再び走り始める。数分後、彼は洞窟に辿り着く。洞窟内に光が見える。

    00.11.12~00.14.33: 撮影者は洞窟に入る。薄い薔薇色の膜が洞窟の中央に張り渡されているのが見える。“かくれ家”SAFE HOUSと読める雑な落書きが膜の向こう、洞窟の反対側に見える。撮影者はカメラを持った手を脇に降ろし、膜に向かって前進する。彼は入場直前にカメラのスイッチを切る。

    アイダホ州の小洞窟で発見された記録です。ちなみにSCP-2000のあるイエローストーン国立公園はアイダホ州、モンタナ州、ワイオミング州にまたがっています。記録によると、アメリカ中西部を連想させる風景が撮影されています。小規模な集落、もしくは町が丘陵の下に見え、その様子は1970年代半ばのもののようですが、配色はこの現実世界と大幅に異なっています。

    途中、巨大な雲が見えるとありますが、この雲は断続的に赤と黒の色合いを呈しており、明らかに異常なものであると見受けられます。さらに数体の不明瞭な灰色の姿が雲から出現し、町に向かっています。

    撮影者はバイオリンケースを背中に括り付けている10代半ばの白人男性で、走って移動しており、“かくれ家”という落書きが反対側に見える洞窟に入り、映像はそこで暗転します。

    おそらく異常な雲が街を襲い、撮影者はそれから逃げようと洞窟に逃げ込んだのだと思われます。

    00.14.44~00.15.27: 映像は深刻に痩せ衰えた撮影者の姿から始まる。彼はカメラに向かって話しているが、局所的な画像の歪みのため、何を話しているかは定かでない。彼の話し方は追い詰められた様子を増していき、やがて彼はカメラのスイッチを切る。周辺環境の配色は正しいものになっている。

    次のシーンでは深刻に痩せ衰えた撮影者がカメラに向かい、追い詰められた様子で何かを語っています。周辺環境の配色は正しいものになっています。痩せ衰えていることから、食料のない中で何十日も過ごした様子です。

    00.15.27~00.17.38: 映像は丘陵の斜面から始まり、洞窟の入口から撮影していることが見て取れる。カメラの揺れは撮影者が足を引きずっていることを示すものと思われる。彼は洞窟の端に向かって移動し、中途で嘔吐と思われる行動を取った後、先へ進み続ける。

    00.17.38~00.18.03: カメラはかつて町があった場所に向けられる。今は廃墟となっているが、その各所に大規模な足場と建築材料が見える。不鮮明ながら同一の容姿と思われるヒト型実体群が数千体、建設作業に従事している様子が伺える。他の人物の姿は無い。全ての実体は同じオレンジ色のつなぎを着用している。以前の映像に見られた異常気象は確認できない。

    00.18.03~00.18.07: カメラが取り落とされ、映像が唐突に途絶える。

    次のシーンでは、同じオレンジ色のつなぎを着用した同一の容姿と思われるヒト型実体群が数千体、建設作業に従事している様子が捉えられています。オレンジ色のつなぎは財団においてはDクラス職員が着用するものです。

    これは財団による活動が始まったと解釈できます。そして同一の容姿の数千体の人間というのは、ある装置により生産可能です。それはSCP-2000に組み込まれている装置、ブライト/ザーションヒト科複製機(BZHR)です。この装置は人間を大量に生産することが可能で、この記述も、SCP-2000が使用されたということを示していると考えられます。

    記録の内容に戻ります。以前の映像に見られた異常気象は確認できないと書かれています。財団は何らかの方法で異常を収束させ、SCP-2000を使用したと思われます。SCP-2000は文明の再構築はできても異常自体を無力化することはできないので、何らかの方法で異常を無力化したことになります。先ほど配色の変化が記録に残っていましたが、これは世界に何らかの変化があった、つまり異常を無力化したということが示されていると思われます。

    あるいは再構築が行われたことを示しているとも考えられますが、SCP-2000は文明の再構築だけができる筈なので、SCP-2000が配色の変化を起こしたとは考えにくいです。

    00.18.07~00.19.25: カメラが拾い上げられる。撮影角度は町に向けられている。町は今、1940年代半ばのアイダホ州ボイシに類似している。

    00.19.25~00.19.30: カメラが撮影者に向けられる — 撮影者の顔と両手は不鮮明になっており、映像の歪みによって視認できない。見て分かる限りの情報から判断すると、撮影者は叫んでいるように思われる。カメラのスイッチが切られる。

    このシーンでは建設が完了したことが窺えます。”再構築”は1940年代からやり直すようで、建設していたのはアイダホ州ボイシであったようです。 SCP-4833のタイムラインには1964年に最初の集団実験がアイダホ州ボイシで行われたと書かれていました。

    撮影者が自身を撮影したところ顔と両手は不鮮明になっており、映像の歪みが生じています。それを見た撮影者は叫んでいるようです。”撮影者は叫んでいるように思われる”とあるので、音声により判断したわけではないようです。声も聞き取れないのでしょうか?

    歪んだ顔というのはSCP-1833 – 76年度同窓生、序曲:予鈴終曲:最後の言葉といったClass of ’76に出てくる異常性です。

    ここに書かれている歪んだ顔は、SCP-2000の”再構築”の影響で生じたと考えられます。SCP-2000による”再構築”は、手順ラザルス-01に従って行われます。初期手順では、最初に補充された人類はSCP-2000の存在とその機能を知らされ、直接文明再構築と再入植の努力を行わせることとなっています。そして”再構築”が完了し、手順ラザルス-01を終了する際に、記憶処理剤ENUI-5が大量に散布され、その記憶を忘却させます。

    異常を人類から隔離するという目的が財団にある以上、異常な存在即ちSCP-2000は大衆に知られてはならず、当然、”再構築”以前の世界は存在しなかったものとして、全て忘れ去られる必要があります。

    この記憶処理剤の影響で、”再構築”以前の世界に属していたものが、記憶できなくなったと考えられます。ただ景色は普通に認識できているので、正確には“再構築”以前の世界に属していた人物の姿や声が記憶できなくなるのだと考えられます。撮影者は”再構築”前の存在であり、散布された記憶処理剤の影響により自身の顔や両手が記憶できなくなり、結果的に歪んで見えて叫び声を上げたのでしょう。

    音声に関しては声を聞いて叫んでいると判断したわけではない書き方であるため、声も記憶できなくなったと思われます。

    この映像を見た者も記憶処理剤の影響下にあるため、撮影者の顔を記憶できなくなり同様に歪んで見えたのだと思われます。

    映像記録に戻ります。次のシーンを見てみます。

    00.19.30~00.19.35: 映像は洞窟の内部から始まる。幾つかの単語が黒いマーカーペンで壁に走り書きされているのが見える: “シナプス”Synapse“歯擦音”Sibilance“予兆”Signs“サヨナラ”Sayonara“シビュラ”The Sybil。一つの単語、“失神”Syncopeが円で囲まれている。

    00.19.35~00.19.49: カメラが撮影者に向けられる。撮影者は明らかにもう痩せ衰えていない。顔と手には以前同様の、しかし著しく悪化した歪みが生じている。撮影者は白いヴェネツィア風の仮面を着用している。カメラのスイッチが切られる。

    ここで“失神”Syncopeという単語が出てきます。記録での様子は頭文字がSで始まる単語の中からSyncopeを選んだように見えます。再びカメラが撮影者に向けられると、撮影者はもう痩せ衰えていないとあり、顔と手には以前同様の、しかし著しく悪化した歪みが生じていて、撮影者は白いヴェネツィア風の仮面を着用しています。

    撮影者は飢餓状態から抜け出したようで、月日の経過があったと見られます。”再構築”後なので食料を得られたのでしょう。白いヴェネツィア風の仮面は歪んだ顔を隠すために着用したのだと思われます。ヴェネツィア風の仮面は、異常被検体1号による証言にあった改造者たちが付けていた“白いカーニバルのマスク”と同一であると考えられます。

    このシーンは撮影者が失神交響楽を立ち上げたことを意味しているように思われます。なぜSyncopeを選んだのかは不明ですが、scpの各文字が含まれていることがヒントかもしれません。SCP財団の関与に気付いており、あえてこの単語を選んだのかもしれません。

    それでは次に行きたいと思いますが、ここでもO5メンバーによる物語調の文章が出てきます。一部抜粋します。

    誰も語らない場所がある。イエローストーン国立公園の数マイル地下に埋もれた、創造者である財団にとってすら謎の場所。それは彼らを真に恐怖させる存在だ。

    この場所、この大洞窟めいて広がる鋼鉄とコンクリートの主目的は再増殖であり、復興であり、復元だ。しかし、その中にはもっと広範な目的で埋められた物もある。スクラントン現実錨、シャンク/アナスタサコス恒常時間溝、君には何も分からないその他の埋め込まれた機械。微妙な、未知の、知られざる手段で時間を捻じ曲げ、因果律を変える装置。

    時には、ひび割れから零れ落ちる物もあるかもしれない。

    ここでSCP-2000が言及されます。SCP-2000は最高機密であり、SCP-1422 – イエローストーンの怪により、2007年7月9日以前は、Dクラス職員を含む財団の全職員がイエローストーン国立公園の存在を知ることができませんでした。

    このO5メンバーも”再構築”の可能性に気付いたと思われます。”ひび割れから零れ落ちる物”こそが撮影者であり、失神交響楽なのではないかと。

    そして、映写機に写る少年は本当に存在したと言えるのか?と考えます。

    それでは最後の折り畳み文章、事案4833-8Cです。

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    事案4833-8C

    2019/01/26、SCP-4833は███████高校の音楽堂跡地の敵対的乗っ取りに着手した。財団工作員は速やかに現場を確保し、SCP-4833の構成員1名のみが存在しているのを確認した。エージェント オハラが当該構成員のインタビューおよび拘留に派遣された。以下は彼女の個人カメラからの映像記録となる。※記録の記述内は青字で解説・考察します。

    <記録開始>

    SCP-4833の構成員(以下SCP-4833-Aとする)が音楽堂のステージ中央に立っている。SCP-4833-Aの外見は著しく歪曲しているが、その歩き方、姿勢、動きは高齢の人間男性と一致する。SCP-4833-Aは白いカーニバル用の仮面を着用しており、服装は20世紀半ばのアメリカの指揮者に典型的なものである。金色のバイオリンを持っている。

    このSCP-4833-Aは映像記録の撮影者であると思われます。カーニバル用の仮面を着用し金色のバイオリンを持っています。撮影者もバイオリンを持っており、ヴェネツィア風の仮面を着用していました。このSCP-4833-Aは高齢者となっているようです。“再構築”後の世界は1940年代になるため約70~80年経過しており、SCP-4833-Aが撮影者と同一なら、高齢なのも納得できます。

    SCP-4833-Aの周囲には多数の衣服が散乱している。これらは20世紀初期から半ばにかけて世界各地の交響楽団員が着用していた服に類似する。

    エージェント オハラ: やぁ。お前と少しの間、話し合えないかと思っていた。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    音声が歪んでいて内容は不明です。会話はできているのですが、この映像を見ている者にはSCP-2000の影響で、”再構築”以前の世界に属していたSCP-4833-Aの声が記憶できないのだと思われます。ただ記憶処理剤が“再構築”後に生まれた人間にも効くとは思えないので、SCP-2000には”再構築”以前の人物を記憶できなくする何か別のシステムが隠されているのかもしれません。

    O5メンバーによる物語調の文章で、SCP-2000について、”微妙な、未知の、知られざる手段で時間を捻じ曲げ、因果律を変える装置”と書かれていたのは、このことを言っていたと捉えることもできます。

    オハラが会話できる理由は分かりませんが、SCP-4833-Aの能力によるものか、あるいは直接話す場合は影響を受けないのかもしれません。

    エージェント オハラ: 構わない。お前を傷付けるために来たんじゃない。私はただ、お前が何者で、何故こんな事をしているのか知りたいだけだ。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: す — すまないが、どういう意味か分からない。私は掩蔽壕なんて知らない — 我々のサイトの一つか?

    被検体BH12が最近注目された第二次世界大戦期の掩蔽壕の探査に関心を示していると書かれていましたが、ここにも掩蔽壕が出てきました。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: いや、それは — OK。分かった。出だしからまずい切り出し方をしてしまったようだ。交響楽の他の皆のことを教えてはもらえないか? お前の共演者たちは?

    SCP-4833-Aは身振りで周囲の衣服を指す。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: …それは — ただの服だろう。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: 彼らは — 死んだ? お前のような連中がそんな—

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: あぁ… そうか。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: つまり、計画でも何でもなかったんだな。お前は衰えた。力を失ったんだ。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    SCP-4833構成員は死に絶えたようです。かなり高齢なようですがSCP-4833-Aは衰え力を失ったのでしょうか?

    SCP-4833-Aはバイオリンを取り上げ、エージェント オハラに向かって数歩踏み出す。エージェント オハラは拳銃を抜き、SCP-4833-Aに照準を合わせる。

    エージェント オハラ: 子供たちを実験台にしたのは何故だ?

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: 自分のようだから、とはどういう意味だ?

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: だったら湖は?

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    SCP-2316ですね。

    エージェント オハラ: な — 何?

    SCP-4833-Aの両手は目に見えて震える。SCP-4833-Aはバイオリンを中心とする何らかの不可視の力に逆らっているように思われる。

    エージェント オハラ: “解釈”とは?

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: ち — 違う。常に意味はある。時には何も裏が無い場合だってある。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: 他の勢力なんて存在しない。有り得ない。お前と、お前の音楽家たちと、お前が手を出した子供たちだけだ。記憶なんてのは、ある種の記録手段に過ぎない。何処から来たのか知らないが、お前には私と同じ血肉がある。お前に謎めいた点なんて何も無いし、何かがお前にこれを強いたわけでもない。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: なら一体何をやったんだ

    SCP-4833-Aはバイオリンで音を奏でる。エージェント オハラの右腕が下がり、彼女は銃を取り落とす。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: 何を — 何をした —

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: どうでもいい。お前は子供たちを攫った。そもそもお前は何だ? 私にはお前の顔が見えない。記憶していられない。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: お前には彼らを忘れさせない必要なんかなかった。そいつらの命にそんな価値は無い。そしてお前は失敗した。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: 掩蔽壕なんて無い! 過去の言葉も、忘れ去られた人々もいない! お前は子分たちを騙して仲間に引き入れ、そいつらは全員去るか死ぬかした。誰も忘れられていない! お前が存在するだけだ! 歴史はただ一つのもの、真実はただ一つのものだ。お前の存在は解明できる、’76年度の生徒たちに何が起きたかも解明できる、私は — きっと、真相を見つけ出す。

    “再構築”以前の世界に属していた人間はSCP-2000により忘れ去られていたと考えられるため、事実はオハラの言うことと真逆だったことになります。遮蔽壕は再構築の記憶処理剤等の影響を受けずにいて、過去を記憶できる場所なのかもしれません。

    SCP-4833-Aはバイオリンの演奏を開始する。曲調はスローテンポで始まり、徐々に速度と音程を増してゆく。

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: お — 音楽には意識なんて無い。それはただそんな風に—

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    エージェント オハラ: そうじゃない — あの子は私にそんな事を — 違う、違う—

    SCP-4833-A: [歪んだ音声]

    SCP-4833-Aはストロガノフの行った記憶の操作を行い始めたようです。バイオリンの演奏で力を発揮するようです。

    エージェント オハラ: 最後の夏だった。来年には大学に行く。私はウォークマンを持っていて、雨が降っていた。後で訊いた時、ケンカのせいじゃないと彼女は言った、で — でも私が覚えているのとは違う。真実はどっちだ?

    SCP-2000の”再構築”は1940年代なので、オハラはSCP-2000により作られた存在ではないはずです。そして私が覚えているのとは違うということは、この記憶は”再構築”以前の世界に属していた何者かの記憶でしょうか?

    SCP-4833-Aの演奏はますます急速になり始める。SCP-4833-Aはバイオリンから身を遠ざけているように見える。

    エージェント オハラ: 丘は緑だった。私たちは — 私がギターを、彼女がドラムを演奏していた。彼女の両親はそんな私たちが気に食わなくて、でもそんな — そんなのは私たちにとってどうでも良かった、きっと素晴らしいことができるはずだった。地平線に広がる茜色の空。

    SCP-4833-Aは今や人間には不可能な速度と複雑さで演奏している。大きく身体を捻って、SCP-4833-Aはバイオリンから自分を引き離し、床に倒れ込む。バイオリンは空中に浮かんだまま演奏を継続している。

    エージェント オハラ: 私たちは何だ? 私たちは誰なんだ? 忘れたのか?

    SCP-4833-Aは頭を抱え込んでいる。SCP-4833-Aは叫び声と思われる歪んだ音声を出す。バイオリンは有り得ない速度の演奏を継続する。

    エージェント オハラ: 忘れてしまったのか?

    数体の人影がコンサートホールの端に出現するのが映る。実体群は全員、顔の造形が著しく歪んでおり、エージェント オハラの方を向いている。

    エージェント オハラ: 私は忘れない。

    カメラ映像が途絶する。

    <記録終了>

    この直後、応援部隊が音楽堂に突入した。SCP-4833-A、衣服、バイオリン、歪んだ容貌のヒト型実体群は全て消失していた。エージェント オハラは完全に意識を保った状態で発見された。報告にあたり、彼女は音楽堂に誰か/何かが存在した記憶は無いと主張した。

    以上が事案4833-8Cの内容でした。

    SCP-4833-Aと失神交響楽のメンバーはどこへ消えたのでしょうか?エージェント オハラが現場に到着した際には数の衣服が散乱しており、失神交響楽のメンバーは到着前に消失していたように見えます。SCP-4833-Aも倒れ込み、突入時にはバイオリンと共に消失していました。

    そして、歪んだ容貌のヒト型実体群が出てきています。その正体は不明ですが歪んだ容貌である以上、”再構築”前の存在であると思われます。

    実体群について語られてないか見返すと、ストロガノフは“別のデザインが、最後のものよりデカいものが常に在る”と述べ、エージェント オハラは“他の勢力なんて存在しない”と言っていましたが、この実体群こそが別のデザインである他の勢力ではないでしょうか?

    SCP-4833-Aは高齢となっていて、途中からは演奏できずに最後は倒れ込んでいます。SCP-4833-Aは高齢であり力尽きたと見なせます。したがって、SCP-4833-A、衣服等の消失は他の勢力が行ったと思われます。失神交響楽と財団以外の第三勢力が失神交響楽を裏で操っていたという可能性もあります。SCP-4833-Aの現実改変能力も第三勢力が与えたものかもしれません。

    では最後に失神交響楽の目的を考えてみます。

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    失神交響楽の目的

    順を追って考えると、SCP-4833の世界では1970年代に世界に破局が起き、SCP-2000により世界は1940年代からやり直されました。SCP-2000による”再構築”は、その年代における傑出した政治的および文化的指導者をファイルの記述的/遺伝的情報を利用して製造開始し、同様に選択された時代に整合する世界規模の一般大衆の複製も行います。

    これは各国の首脳や文化的指導者を複製し、その時代背景に適した大衆も複製することで歴史の連続性を保とうとしていると考えられます。

    しかし、歴史とは様々な要因の複雑な交わりの結果であるため、本来の歴史とずれが生じます。この”再構築”の影響で、SCP-4833の世界では歴史が変化しケネディ大統領暗殺やベトナム戦争が起きなくなります。

    SCP-4833-Aは、世界の滅亡から生き延びた、”再構築”前の世界の人間で、SCP-2000により顔や声が記憶されなくなったと考えられます。SCP-4833-Aは仮面を被り”再構築”後の世界で失神交響楽として活動を開始します。

    SCP-4833-Aはタイムラインにあるように1947年から、若者を誘拐し改造実験を行い始めます。普通の人間が一人でこれを行えるとは思えないので、SCP-4833-Aは説明にあるとおり現実改変能力者であると思われます。生まれついてのものなのか、後天的に現実改変能力を身に付けたのかは不明ですが、第三勢力の介入で身に付けた可能性もあります。

    失神交響楽は1947年に、おそらくは誘拐に先立つ形で、マーシャル・カーター&ダーク社からリストにあったものを手に入れ、実験に用います。

    SCP-4833構成員は、説明にある通り現実改変者であり、ストロガノフ同様の能力を持っていたと考えられます。したがって実験の目的の一つは誘拐した若者に現実改変能力を与えることのようです。

    そして、もう一つの目的は誘拐した若者に”再構築”以前の世界の記憶を持たせることのように思われます。文書2の被験体が有していた“ケネディ大統領”の暗殺などの記憶は、”再構築”以前の世界の記憶であり、SCP-4833は被験体に”再構築”以前の記憶を植え付けていたと考えられます。

    SCP-4833-Aは実験を通して、現実改変能力と”再構築”以前の世界の記憶を持つ若者を増やしていったようです。これは、失神交響楽のメンバーを増やすために行ったと考えられます。

    ではSCP-4833-Aはメンバーを増やして何をしようとしていたのでしょうか?

    SCP-4833-Aはエージェント オハラに子供たちを実験台にした理由を聞かれ、”自分のようだから”と答えたようです。SCP-4833-Aは偽りの記憶を与えられた”再構築”後の若者と、過去の記憶をなかったことにされた自分を重ねたのではないかと思われます。また、対象となった若者にはSCP-4833-Aと同じく音楽の才能があったと思われます。

    やり直しが始まる直前に作り出された人々はSCP-2000により”選択された時代に整合する”ように偽りの過去を与えられたと考えられます。”再構築”前の正しい記憶を音楽を志す若者に与えることで、交響楽の仲間を増やし、決して忘れ去られない音楽を作り出そうとしたのかもしれません。

    そして1976年にSCP-332 – 1976年度カーク・ロンウッド高校マーチング・バンドの332-A事件を起こしたと見られます。しかし、1977年以降はSCP-4833の活動は下火になり、誘拐された人物の数は1976年と比較して急激に減少。今日に至るまでその傾向が続いているとあり、超常コミュニティにおいては、これはSCP-4833が1976年の何処かの時点で目標を達成したためだと推測されています。

    目標を達成したという推測が正しいとすれば、SCP-4833-Aはなぜ2019年に███████高校の音楽堂跡地の敵対的乗っ取りを行おうとしていたのでしょうか?

    考えられることは、1976年に目標達成に失敗し、2019年にそれに再挑戦した、あるいは達成したものの今回は別の目的があったということです。その目的は不明であり、どちらが答えかは分かりませんが、この乗っ取りは力の衰えつつある失神交響楽が最後の演奏をするために起こしたことであるように感じられます。

    失神交響楽が望むもの

    忘れ去られた存在が失神交響楽の正体でしたが、彼らが望むものはなんでしょうか?今まで見てきたように、このSCP-4833はマリアナ海溝から回収された文書を下敷きとしています。マリアナ海溝から回収された文書のラストにはこう書かれています。

    どうか、彼らが私を洗い流さないように。彼らが我々を隠さないように。もっと色々なものを見つけてくれ、なにかを残そうとした人たちがいることを私は知っている。世界を無駄死にさせないでくれ。我々を忘れないでくれ。(Remember us.)

    これは”再構築”により忘れ去られた、過去の世界に生きていた人間からのメッセージです。これは、SCP-4833の

    エージェント オハラ: 私たちは何だ? 私たちは誰なんだ? 忘れたのか?

    エージェント オハラ: 忘れてしまったのか?

    エージェント オハラ: 私は忘れない。

    というセリフと対応していると思われます。このセリフは失神交響楽が”忘れ去られない”ことを望んでいることを表しているように感じられます。具体的な方法は不明ですが、少なくとも忘れ去られないことが目標に含まれていると思われます。

    SCP-4833-Aの最後の演奏は、それを言う、または言わせるために起こしたのかもしれません。しかしエージェント オハラは、おそらくはSCP-2000の記憶への効果により、結局何も覚えてはいなかったのです。

    ところで、失神交響楽が”忘れ去られない”ことを望んでいると考えると、失神交響楽に改造されたストロガノフの台詞の意味も分かります。ストロガノフは失神交響楽とは逆に忘れ去られることを望んでいたようです。ストロガノフは

    俺を寒さの中で死なせてくれ、ジョン。俺が惨めなゴミクズだってことを忘れさせてくれ。俺は戻りたくねぇ。

    と言っていましたが、これは失神交響楽として記憶に残ることを望まず、人間として死に、忘れ去られたいという思いを述べていたと思われます。そして”俺を見つけ出すだろう”というのは、失神交響楽にいずれ連れ戻され、永遠に記憶に残り続けることを余儀なくされるということではないでしょうか?

    財団が望むもの

    以上で内容については終わりですが、最後に以下のような記述があります。

    少女が廊下で微笑んでいる。彼女は友達から聞かされた、もう耳には届かない何かのジョークに笑う。顔に不安げな表情を浮かべた女教師が通り過ぎる。陽射しが窓から差し込んでいる。画質は粒状の光の中に一連の場面を洗い流してゆく。

    その廊下はもう、決して存在しなかったものになった。このフィルムリールは、他の小さな断片と共にマリアナ海溝の底から回収された。暗闇の中、人間には到達し得ない場所に埋まっていたのだ。かつて在りし物が見つかり得るただ一つの場所。

    誰も彼女を覚えていない。君に見えるのはページを、図像を、この太古の生物に偶然似ている影法師が落としたそのまた影を照らす光だけだ。それは記憶ではなく、ある時そこで何かが動いたことを示す揺らぎでしかない。

    リールは再生を終えた。残響が部屋に谺する。カチッ、カチッ、カチッ。白黒の線が画面にちらつく中、君はそこに座っている。タバコの煙が、君の無表情な顔の前の空気を満たす。

    いつの日か、君もまた存在しなかったことになるだろう。何かの惨事か、つまらない破局が訪れて、上を下への大騒ぎがまた始まる。掩蔽壕、操作レバー、死と終焉。活動は停止する — それでも

    たとえそんな事が起きなくても、全てが失敗しても、君自身の人生はそこで終わる。他の沢山の人々がそうであったように消え去るのだ。君は死体になり、骨になり、塵になり、決して存在しなかったものになり、誰もが君を忘れてしまう。

    木々が君の墓の上に育つ。花々は踊る。人類はぐずぐずと長居してから死ぬか、星々の間へと広がって故郷を忘れ去る。地球はひび割れて炎上し、分子が死に、原子が死に、闇が全てを包み込む。ほんのわずかに散らばった波の名残さえ消散して、その後は永久に何も起こらなくなるのだろう。無限という概念を持たない無限。

    或いは、そうはならないかもしれない。

    君はライターを取り上げて文書を燃やし、舐めるように紙を呑む炎をじっと見つめる。立ち上がり、揺らめく光に冷然と向き合って、部屋を出てゆく。

    何一つ後に残すことなく。

    O5メンバーが見ていたのはマリアナ海溝の底から回収された映像でした。O5メンバーは忘れ去られゆく個人の記憶、宇宙の終わりには消えゆく人類という存在について思いをはせた後、文書を燃やし、部屋を出て行きます。

    文書が燃やされていますが、冒頭にSCP-4833のファイルは請求したものだと書かれているので、機密情報を漏らさぬよう請求したコピー文書を燃やしたのだと思われます。しかし、この部分の描写はそれだけを表現しているのではないと思われます。

    文書を燃やす、つまり過去の記憶を消すという行いは、SCP-2000が”再構築”で過去にあった出来事をなかったことにすることと同じであり、それは、財団職員が、たとえ全人類の過去の記憶が全て忘れ去られようとも、異常により人類が滅びぬようあらゆる手段を用いていくという意志を示しているのではないでしょうか?

    “再構築”の有無に関わらず、他の大勢と同じく個人の人生は終わり忘れ去られます。人類もやがては滅び存在の記憶すらも消え失せるでしょう。

    しかし、いずれ人類が滅びる定めだとしても、財団の行動は変わりません。忘れ去られた存在が生まれるとしても異常から人類を守る為に可能な手段はすべて試す筈です。O5メンバーはそんな思いを抱き、部屋を後にして仕事に戻ったのだと思います。

    創設者とメンバーを失い失神交響楽はもはや力を失ったも同然に見えますが、また再び彼らは現れるのでしょうか?そして、その交響曲は永遠に続いてゆくのでしょうか?

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    おわりに

    SCP-4833 – 失神交響楽でした。1976年に何が起きたのかは分かりませんでしたが、失神交響楽の起源は判明しました。まさかClass of ’76にSCP-2000が絡んで来るとは思いもしませんでした。

    最後までお読み頂きありがとうございました!

     

     

    SCP-2000 – Deus Ex Machina
    原著者 FortuneFavorsBold
    作成年:2013
    http://www.scp-wiki.net/scp-2000

    SCP-2000 – 機械仕掛けの神
    翻訳者 Porsche466
    http://ja.scp-wiki.net/scp-2000
    作成年:2014

    Document Recovered From The Marianas Trench
    原著者 Dr Gears
    http://www.scp-wiki.net/document-recovered-from-the-marianas-trench
    作成年:2010

    マリアナ海溝から回収された文書
    翻訳者不明
    http://ja.scp-wiki.net/document-recovered-from-the-marianas-trench

    SCP-4833、SCP-2000、マリアナ海溝から回収された文書に基づく本記事の内容はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンスに従います。

    コメント

    1. 面白いですねー