SCP-5034 – 肉の天使たち 紹介&考察

SCP紹介&内容整理
この記事は約25分で読めます。

SCP-5000 – どうして?の作者であるTanhony氏は、SCP-4972 – なにかおかしい、SCP-5688 – 手など、理解するのが難しいSCPを多く書いています。今回はそんな作品の中から、144時間ジャムコンテスト2020の作品、SCP-5034 – 肉の天使たちを紹介&考察します。

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SCP-5034とは

ではさっそく、SCP-5034の報告書を見ていきます。冒頭には誤伝達部門からの通知が書かれています。

誤伝達部門より通知
このファイルの分析により、異常な性質が表示されないことが確認されました。中に存在する全ての情報は、事実をそのまま述べたものとみなすことができます。

— エリ・フォークレイ、誤伝達部門主任

誤伝達部門とは、異常性により正確な説明や伝達を行うのが困難なSCPを扱う財団内の一部門です。誤伝達部門が出てくるということは、SCP-5034は説明困難なオブジェクトなのかと思うところですが、通知には、”全てのの情報は、事実をそのまま述べたものとみなすことができる”と書かれており、SCP-5034は説明困難なオブジェクトではないようです。

なぜわざわざこのような通知が書かれているのか気になりますが、先に進みます。

SCP-5034のオブジェクトクラスはTiamatです。見慣れないオブジェクトクラスですが、特殊オブジェクトクラスの包括的リストによると、このオブジェクトクラスは

アイテムは人類に対し喫緊の脅威となりますが、公の戦闘など、ヴェールを破るような方法によって「収容」することはできます

と書かれています。ヴェールとは、正常性を維持するために財団の存在を一般社会から秘匿するという財団の基本方針、またはそれを実施するためのプロトコルを表す言葉です。ヴェールが破られることは、財団やオブジェクトの存在が一般社会に知れ渡ることを意味します。

Tiamatはヴェールを破るような方法、つまり財団の存在を公にするような方法を用いれば収容できるオブジェクトを表しています。

それでは特別収容プロトコルを見てみます。

特別収容プロトコル

特別収容プロトコルは以下のようになっています。見やすさのために脚注は()に入れています。

予算上の懸念(詳細は収容試行5034-17を参照。)により、SCP-5034の収容は現在不可能とみなされています。SCP-5034が骨董品店(現在どのような基準で攻撃サイトを確立するかは未定です。)で発見された場合、エージェントは直ちにその店に行き、実験を開始します。

SCP-5034に関しては、標準試験機器の使用が許可されています。全ての試験は財団実験委員会(2020年9月15日に最初の戦闘行為が開始された後に結成された。)の承認を得なければなりません。

一見すると普通の特別収容プロトコルに見えますが、脚注に妙な言葉が紛れています。収容プロトコルには、オブジェクトを見つけた場合に実験を行うこと、およびその方法が書かれていますが、なぜか脚注には「攻撃サイト」、「戦闘行為」といった場違いな言葉が混じっています。

どういうことかは分かりませんが、説明を見てみます。

説明

説明: SCP-5034は陶器の鉢(その範囲にはこの惑星全体が含まれていることが確認されていますが、それよりもさらに範囲が超えるかどうかは現在不明です。)と、その中に入っている7つの赤いビー玉(個々人によって外観が変化。SCP-5034の外観の完全な説明については、目撃ログを参照。)の総称です。

常に、SCP-5034は陶器の鉢とその中の7つの赤いビー玉で構成されます。SCP-5034からビー玉が破壊または除去されると、ビー玉は消滅し、鉢の中に新しいビー玉が再出現します。SCP-5034の外側でビー玉を収容する試み(この目的の為に、プロトタイプ適応収容チャンバー(ACC)の使用が承認されました。)も同様に失敗しました。これらのビー玉に干渉しようとする試みは全て、財団の予算(最新情報が不足しているため、完全な死傷者報告はまだありません。)に非常に悪い影響を与えてきました。

SCP-5034はもう一つ異常効果を示します。SCP-5034を観察する全ての個人は、それまでの認識の有無にかかわらず、7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識します。しかし、SCP-5034から一段階挟んだ二次的な情報は直接影響を与えないようです(これまでのところ、形而上学的カモフラージュを直接破る試みは成功していません。)。例えば、SCP-5034を観察している個人はそれが陶器の鉢であることを認識しますが、SCP-5034によって残された痕跡を観察する個人は認識しません(非同期戦争計画の詳細については、財団戦争委員会を尋ねてください。)。

説明の脚注も妙な記述となっています。脚注には「死傷者」や「非同期戦争計画」といったきな臭い言葉が並びます。

とりあえず脚注を無視して内容をまとめると、以下のようになります。

SCP-5034は鉢とその鉢に入った7つの赤いビー玉の総称で、ビー玉を鉢から取る、または破壊するとまたビー玉が出現するそうです。外側でビー玉を収容する試みも同様に失敗するとあるので、ビー玉を鉢から離すことができないようです。

およそ危険からはほど遠いオブジェクトのようです。正直なところAnomalousアイテムに分類されそうな内容ですね……。どういうわけか、コストが掛かりそうな要素はないにもかかわらず、SCP-5034財団の予算に非常に悪い影響を与えてきたと書かれています。

説明の内容は、予算に非常に悪い影響を与えてきたという記述を除けば、特に意味の分からない記述はありません。しかし、脚注の記述を含めると訳が分からなくなります。説明の最初の脚注によれば、鉢の範囲は惑星全体が含まれると書かれています。一体全体、物理的にどんな状況なのでしょうか?SCP-5034は惑星を包み込む超巨大オブジェクトなのでしょうか?

しかし、そんな巨大なオブジェクトであれば、説明にその情報が書かれているはずですが、そんな記述はどこにもありません。どういうことでしょうか?

その次の脚注によると、7つの赤いビー玉は個々人によって外観が変化するとあります。こちらは意味が分かります。

続く3つ目の脚注、SCP-5034の外側でビー玉を収容する試みの為に、プロトタイプ適応収容チャンバー(ACC)の使用が承認されたという記述も、おそらく何らかの財団のテクノロジーが用いられたのだな、と推測できます。

適応収容チャンバーは、SCP-5034と同じ著者のTanhony氏によるSCP-4972 – なにかおかしいにも登場し、”脅威レベル赤の異常物を安全に格納するために設計された”と書かれています。「脅威レベル」とは本来はフランス支部独自のシステムで、他支部でも使用されることがあります。

「脅威レベル: 赤」は予測不可能で、大規模な被害をもたらすK-クラスイベントに相当するようなオブジェクトに対して用いられます。その収容違反の防止は優先的に考慮されるべきとなっています。多くの場合、EuclidやKeterのオブジェクトが指定されます。詳しくはSCPオブジェクトの脅威レベルをご覧下さい。

しかしその次の脚注、

財団の予算(最新情報が不足しているため、完全な死傷者報告はまだありません。)

はまた良く分からない記述です。見た限り安全そうなオブジェクトで死傷者が出るとは思えませんが……。

続きを見てみます。

SCP-5034には別の異常効果があり、SCP-5034を観察する全ての個人は、それまでの認識の有無にかかわらずSCP-5034を7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識するそうです。

不思議な記述ですね。SCP-5034が鉢の中の7つの赤いビー玉であるなら、当然それを観察する者はそれらを7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識するはずですが……。

しかし、SCP-5034から一段階挟んだ二次的な情報は直接影響を与えないようです。

脚注には「これまでのところ、形而上学的カモフラージュを直接破る試みは成功していません。」と書いてあります。そしてその例として、例えば、SCP-5034を観察している個人は、それが陶器の鉢であることを認識するが、SCP-5034によって残された痕跡を観察する個人はそれを認識しないと書かれています。

この記述を整理すると、SCP-5034には形而上学的カモフラージュが存在し、その結果、SCP-5034を7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識するということになります。

形而上学とは、現象的世界を超越した事物の本質や存在の根本原理を明らかにしようとする学問を指す哲学の用語ですが、ここでは概念的な、高次のというような意味で用いられていると思われます。つまり、SCP-5034には目に見えない概念的なカモフラージュが存在するようです。

ということは、SCP-5034の説明は概念的なカモフラージュについて述べたものなのでしょうか?

かなり引っかかる情報ですが、次に実験ログを見てみます。

実験ログ

補遺5034-1(実験ログ):

以下はSCP-5034で行われた全ての実験の記録です(完全なリストは、サイト-19 サイト-37 サイト-22 サイト-92アーカイブにあります。)。

実験5034-1

状況: SCP-5034が発見された際、財団職員は鉢から3つのビー玉を取り外して収容しようとした(世界オカルト連合と協力して行われた作戦。)。
結果: 取り外されると、全てのビー玉が消えて鉢の中に再び出現した。収容失敗(BKクラスシナリオは1時間後に公式に宣言された。)。財団の予算が大幅に影響を受けた。

実験内容は説明の記述と同じですが、サイトにいくつも打ち消し線が引かれ、脚注では何故か世界オカルト連合と協力したり、”BKクラスシナリオ”が宣言されています。

BKクラスシナリオはBroken Masquerade(壊された虚構)シナリオのことで、正常性を維持するためには隠されておかなければならない財団やオブジェクトの存在が一般社会に知れ渡る、すなわちヴェールが破られたことを意味します。

これは、オブジェクトクラスがTiamatであることと対応していますが、もっと厄介なモノを収容している財団であれば、ビー玉を隠すのは容易いはずです。疑問は尽きません……。

脚注ではかなり危機的な状況になっているように見えます。ここでも財団の予算が大幅に影響を受けています。

実験5034-2

状況: インドのチェンナイの骨董品店でSCP-5034が再発見された際、財団職員は鉢からビー玉を1つ取り出し、大槌(いくつかの要請されたアノマリーの組み合わせによって構築されています。)で粉砕しようとした。
結果: ビー玉の破壊に成功した後、鉢の中に再出現した。破壊失敗。財団の予算が大幅に影響を受けた。

インドのチェンナイの骨董品店でSCP-5034が再発見されます。大槌でのビー玉破壊には成功したものの、ビー玉は鉢の中に再出現。SCP-5034の破壊に失敗したようです。

財団はなぜかオブジェクトを収容ではなく、破壊しようとしています。ここでも財団の予算が大幅に影響を受けています。

実験5034-3

状況: 多数の個人コレクターを通じてSCP-5034の販売を追跡した後、財団職員は鉢の中のビー玉を入れたままにして保管しようとした。
結果: 収容は6日間成功した。しかし、7日目に警備員が収容チャンバーに入り、誤って鉢からビー玉を放出した(完全な詳細は解剖レポート5034-29331を参照。)。収容失敗。財団の予算が大幅に影響を受けた。

鉢の中のビー玉を入れたままにして保管しようとしたところ、収容は6日間成功しましたが、警備員が誤ってビー玉を出し、収容失敗。財団の予算が大幅に影響を受けています。

実験5034-4

状況: SCP-5034が再発見されると、出動可能な全ての財団職員は、大槌を使ってビー玉を叩き割ろうとした。
結果: 5つのビー玉の破壊に成功した(再生能力のため、6番目の実例の部分的な破壊は不十分だった。)。しかし、その後鉢の中に再出現する。破壊失敗。

この実験では、出動可能な全ての財団職員が大槌を使ってビー玉を叩き割ろうとし、その結果、5つのビー玉の破壊に成功しました。が、またもその後鉢の中に再出現し破壊失敗しています。もはや実験とは言えないような状況になっています。

実験5034-5

状況: SCP-5034が再発見されると、出動可能な全ての財団職員(パンゲア協定に基づき、残りの全ての世界政府と協力して実施。)は、大槌を使ってビー玉を叩き割ろうとした。

結果: 6つのビー玉の破壊に成功した。しかし、その後鉢の中に再出現する。破壊失敗(現在の仮説では、終了の成功の為に7つの実例全てを排除する必要がある。)。

この実験では、残りの全ての世界政府と協力して、出動可能な全財団職員が前回と同じく大槌を使ってビー玉を叩き割ろうとしました。その結果、6つのビー玉の破壊に成功しましたが、またもビー玉が鉢の中に再出現し破壊に失敗しています。

このとき、終了の成功の為に7つの実例全てを排除する必要があるという仮説が立てられたとあります。

実験5034-6

状況: SCP-5034が再発見されると、全ての財団職員は、手元にある道具でビー玉を破壊しようとした。

結果: 7つ全てのビー玉の破壊に成功した。その後、鉢の中に再出現する(倫理委員会とO5の共同裁決に従い、集団安楽死の選択が現在検討されている。)。

今度は全財団職員が、手元にある道具でビー玉を破壊しようとし、7つ全てのビー玉の破壊に成功しました。が、結局ビー玉は鉢の中に再出現します。

因果関係がわかりませんが、「倫理委員会とO5の共同裁決に従い、集団安楽死の選択が現在検討されている。」と非常に不穏なことが書かれています。

補遺5034-2:

財団の予算は破産寸前のため、これ以上の実験は不可能です(我らの身体を燃やす。)。

実験の結果、財団の予算は破産寸前となり、これ以上の実験は不可能となっようです。そしてどういうわけか我らの身体を燃やすことになったようです。

訳が分かりませんが、以上で報告書は終わっています。いったい何が起きていたのでしょうか?

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考察

説明を再び見てみます。本作品を理解する上で重要なのは以下の点であると思われます。

  1. SCP-5034には形而上学的カモフラージュがあり、その結果、SCP-5034を観察する全ての個人は、SCP-5034を7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識する。
  2. 形而上学的カモフラージュを直接破る試みは成功していない。
  3. SCP-5034から一段階挟んだ二次的な情報は直接影響を与えない。

まず、1の記述から、SCP-5034を観察する全ての個人は形而上学的カモフラージュにより、事実を正しく認識していないと考えることができます。当然、これは報告書を書いた人物にも当てはまるため、報告書を書いた人物はSCP-5034を7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識している筈です。

さらに、2の記述では、形而上学的カモフラージュは破ることができていないとあるため、この報告書は確実に、カモフラージュされたSCP-5034をそのまま記述していることになります。

これは、最初にあった誤伝達部門からの通知の内容と一致しています。

このファイルの分析により、異常な性質が表示されないことが確認されました。中に存在する全ての情報は、事実をそのまま述べたものとみなすことができます。

全ての情報はカモフラージュされたSCP-5034をそのまま述べたもので、記述自体には異常性がないということです。しかしながら、3の記述により、一段階挟んだ二次的な情報、つまり脚注は影響を受けていないことになります。

つまり、SCP-5034に関する記述は形而上学的カモフラージュにより偽装されているものの、脚注は真実であるということです。

これを踏まえた上で、再度報告書を読むとSCP-5034の本当の姿が推測されます。

SCP-5034は人類に敵対的な異常実体であると思われます。そして、財団はSCP-5034を破壊するために、財団の総力を上げて対処しようとしていたと考えられます。

再び内容を最初から順番に見ていきます。

特別収容プロトコル:

予算上の懸念(詳細は収容試行5034-17を参照。)により、SCP-5034の収容は現在不可能とみなされています。SCP-5034が骨董品店(現在どのような基準で攻撃サイトを確立するかは未定です。)で発見された場合、エージェントは直ちにその店に行き、実験を開始します。

特別収容プロトコルには、予算上の懸念により、SCP-5034の収容は現在不可能とみなされていると書かれています。予算上の懸念という具体的ではない根拠が書かれている理由はなんでしょうか?

これは、次のように説明できると思います。

SCP-5034の形而上学的カモフラージュによりSCP-5034に関する情報は正しく認識できず、SCP-5034を7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であるということ以上の具体的な説明ができないことになります。しかし、一段階挟んだ二次的な情報は正しく認識できます。

したがって、SCP-5034に対処するための経済的なコストが莫大であるという二次的な情報だけが正しく報告書に記載されているのでしょう。SCP-5034は自身に関する一次情報だけをカモフラージュしているのだと思われます。

SCP-5034そのものに関しては正しく認識できず、それが引き起こしたことなどは正しく認識できると言えます。

そして、予算上の懸念があるという記述は逆に考えるなら、実際のSCP-5034がそれだけのコストがかかる非常に危険で厄介なオブジェクトであることを示しています。

SCP-5034が自身に関する一次情報だけをカモフラージュしていることを念頭に置き、続きを読むと、ここに出てくる骨董品店という記述もカモフラージュであり、具体的にどこなのかは不明ですが、SCP-5034が発見される特定の場所を偽装しているのだと考えられます。

また、”エージェントは直ちにその店に行き、実験を開始します。”という記述もカモフラージュされたものであると思われます。実験ログでは、SCP-5034の収容や破壊を試みており、実際は、実験ではなくSCP-5034と交戦していると考えられます。「戦闘行為」と以下の脚注に書かれていることもその根拠です。

SCP-5034に関しては、標準試験機器の使用が許可されています。全ての試験は財団実験委員会(2020年9月15日に最初の戦闘行為が開始された後に結成された。)の承認を得なければなりません。

ここに書かれている標準試験機器とは、実際は実験ではなく交戦に使う機器、即ち標準的な武器や兵器を指しているのでしょう。財団実験委員会とはSCP-5034との交戦を担当する財団内組織であると考えられます。

次は説明を見てみます。

説明: SCP-5034は陶器の鉢(その範囲にはこの惑星全体が含まれていることが確認されていますが、それよりもさらに範囲が超えるかどうかは現在不明です。)と、その中に入っている7つの赤いビー玉(個々人によって外観が変化。SCP-5034の外観の完全な説明については、目撃ログを参照。)の総称です。

SCP-5034は陶器の鉢と、その中に入っている7つの赤いビー玉の総称と書かれていますが、先ほど述べたとおり、これはそう認識させられるだけで、実際のSCP-5034は別の何かであると考えられます。財団は SCP-5034と交戦して終了しようとしていたことから、SCP-5034は敵対的で危険な異常実体であると推測できます。

陶器と7つの赤いビー玉とは何か?

ここで陶器の鉢と、その中に入っている7つの赤いビー玉というカモフラージュがそれぞれ何なのかについて考えてみます。カモフラージュされた記述と事実が全く異なるという可能性もありますが、ここではカモフラージュされた記述が、SCP-5034の本来の姿の比喩的な表現であると仮定して考えてみます。

まずは陶器の鉢についてです。鉢はものを入れる器です。これは7つの赤いビー玉が宿る肉体のことではないかと思われます。そして、7つの赤いビー玉は7つの同じ種類の何かを表していると思われます。7つの何かが宿る肉体です。

ところで、陶器の鉢についての脚注には、その範囲にはこの惑星全体が含まれているとありましたが、そのような巨大すぎる肉体があるとは考えにくいため、ここでいう範囲は行動範囲、または出現範囲を表していると思われます。

話を戻します。

いろいろと考えてみたところ、報告書に書かれている7つのビー玉とは頭部であり、鉢はその肉体なのではないかという結論に思い至りました。

世界の神話の中には、八岐大蛇(やまたのおろち)やケルベロスなど複数の頭部を持つ怪物がしばしば登場します。赤いビー玉は何度も破壊されていましたが、7つの赤いビー玉が7つの頭部であれば、それを破壊すれば対象を終了できると推測できるため、それらは攻撃目標となりえます。

ここまで考えたところで、体色が赤で7つの頭部を持つ怪物がいるのではないかと思いつきました。調べたところ、この特徴はある怪物の特徴と一致していました。

それは黙示録の獣 – Wikipediaです。

黙示録の獣とは、新約聖書の『ヨハネの黙示録』十二章および十三章に登場する獣です。『ヨハネの黙示録』ではキリスト教における世界の終末と救済が描かれています。

『ヨハネの黙示録』十二章および十三章には、赤い竜第一の獣第二の獣が登場しますが、第一の獣は十の角と七つの頭、十の冠を持ち、第17章によれば、その姿は緋色の獣(scarlet beast)であるとされます。赤い龍については十の角と七つの頭、七つの冠を持つとされます。

候補が2つ出てきましたが、第一の獣は、海から来るとされ、再生能力を持つと解釈できる描写もあることから、SCP-5034はヨハネの黙示録の第一の獣なのではないかと思われます。

第一の獣は、以下のように描写されます。

13:1
わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついていた。

ヨハネの黙示録(口語訳)#13:1

SCP-5034はインドのチェンナイでも発見されましたが、チェンナイは海に面しています。

また、以下のような描写もあります。

13:3
その頭の一つが、死ぬほどの傷を受けたが、その致命的な傷もなおってしまった。

ヨハネの黙示録(口語訳)#13:3

これはビー玉を壊してもビー玉が再出現することや、”再生能力のため、6番目の実例の部分的な破壊は不十分だった。”という記述とも一致しているように思います。

ヨハネの黙示録では、第一の獣は、神と敵対する赤い竜からその力と位と大いなる権威を与えられており、”すべての部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられ”ています。

13:4
また、龍がその権威を獣に与えたので、人々は龍を拝み、さらに、その獣を拝んで言った、「だれが、この獣に匹敵し得ようか。だれが、これと戦うことができようか」。

13:7
そして彼は、聖徒に戦いをいどんでこれに勝つことを許され、さらに、すべての部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられた。

ヨハネの黙示録(口語訳)#13:4

第一の獣の次に、小羊のような角を2つ持つ第二の獣が出てきますが、人々に自らの像を作らせ、像を拝まない者を殺すなど、人々に獣を信仰させ、キリスト教を信じる者達を苦しめます。最終的に両者は、天の軍勢により捕えられ、生きながら、硫黄の燃えている火の池に投げ込まれます。

SCP-5034はおそらくはこの第一の獣なのではないかと思われます。ただSCP-5034は、ヨハネの黙示録に描かれた第一の獣と全く同じ特徴を持っているわけではないため、第一の獣そのものではなく、ヨハネの黙示録における第一の獣は、SCP-5034を予言していたという解釈をとりたいと思います。

では再び説明を見てみます。

常に、SCP-5034は陶器の鉢とその中の7つの赤いビー玉で構成されます。SCP-5034からビー玉が破壊または除去されると、ビー玉は消滅し、鉢の中に新しいビー玉が再出現します。SCP-5034の外側でビー玉を収容する試み(この目的の為に、プロトタイプ適応収容チャンバー(ACC)の使用が承認されました。)も同様に失敗しました。これらのビー玉に干渉しようとする試みは全て、財団の予算(最新情報が不足しているため、完全な死傷者報告はまだありません。)に非常に悪い影響を与えてきました。

先ほど述べたように、SCP-5034は赤い体色と7つの頭部を持つ、人類に敵対的な異常実体であると思われます。

この実体に干渉すると多くの死傷者や被害が出るため、財団の予算に悪影響があると記述されているのでしょう。最新情報が不足しているのは、SCP-5034の被害が甚大で死傷者のカウントが追いつかないため、あるいは財団が大きな被害を受け、情報収集に支障をきたしているのかもしれません。

SCP-5034はもう一つ異常効果を示します。SCP-5034を観察する全ての個人は、それまでの認識の有無にかかわらず、7つの赤いビー玉を含む陶器の鉢であると認識します。しかし、SCP-5034から一段階挟んだ二次的な情報は直接影響を与えないようです(これまでのところ、形而上学的カモフラージュを直接破る試みは成功していません。)。例えば、SCP-5034を観察している個人はそれが陶器の鉢であることを認識しますが、SCP-5034によって残された痕跡を観察する個人は認識しません(非同期戦争計画の詳細については、財団戦争委員会を尋ねてください。)。

ここは先ほど述べたとおりですが、SCP-5034が形而上学的カモフラージュを用いている理由は、自己防衛のためではないかと思われます。

孫子の兵法にも「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」とあるように、戦いにおいては情報が重要になりますが、SCP-5034は自身を正しく認識させないことで、相手を撹乱しているのだと思われます。

2つ目の脚注の財団戦争委員会とは、先ほどでてきた財団実験委員会の本来の名称であると思われます。

非同期戦争(asynchronous warfare)とは、英語で検索した限りではおそらくサイバー攻撃などの様々な手段を複数用いて行われる戦争のことを指す言葉ではないかと思われます。あらゆる手段でSCP-5034を破壊しようとしたということを意味しているのかもしれません。

次は実験ログを見てみます。

補遺5034-1(実験ログ):

以下はSCP-5034で行われた全ての実験の記録です(完全なリストは、サイト-19 サイト-37 サイト-22 サイト-92アーカイブにあります。)。

ここで複数のサイトに斜線が引かれているのは、おそらくSCP-5034の攻撃で複数のサイトが壊滅したためだと思われます。先ほど述べたように、実験という言葉はカモフラージュで、実際は事案という表現が相応しいように見えます。

実験5034-1

状況: SCP-5034が発見された際、財団職員は鉢から3つのビー玉を取り外して収容しようとした(世界オカルト連合と協力して行われた作戦。)。
結果: 取り外されると、全てのビー玉が消えて鉢の中に再び出現した。収容失敗(BKクラスシナリオは1時間後に公式に宣言された。)。財団の予算が大幅に影響を受けた。

最初の収容に向けた作戦は、世界オカルト連合と協力して行われました。財団と世界オカルト連合が協力するのは、世界の正常性に重大な危機が迫った時以外に考えられず、このことからもSCP-5034が危険なオブジェクトであることが示されます。また、同時に、財団だけで対処できないほどに、SCP-5034が強大であることを示しています。

取り外して収容の意味は、おそらく頭部の切断であると思われます。切断しても頭部が消え、再生するのだと思われます。

財団はSCP-5034の収容に失敗し、財団やオブジェクトの存在が明るみに出るBKクラス、壊された虚構シナリオを引き起こします。SCP-5034により財団でも隠蔽できないような大惨事が起きたと考えられます。財団にも大きな被害が出て、結果、財団の予算が大幅に影響を受けたのでしょう。

実験5034-2

状況: インドのチェンナイの骨董品店でSCP-5034が再発見された際、財団職員は鉢からビー玉を1つ取り出し、大槌(いくつかの要請されたアノマリーの組み合わせによって構築されています。)で粉砕しようとした。
結果: ビー玉の破壊に成功した後、鉢の中に再出現した。破壊失敗。財団の予算が大幅に影響を受けた。

再びSCP-5034が発見されます。インドのチェンナイは海に面しており、おそらく海からSCP-5034が上陸したのではないかと思われます。骨董品店とは港かもしれません。

破壊に使用した大槌とは、脚注から、財団が保有するアノマリーを組み合わせて作り出した異常兵器であると考えられます。ヴェールが破られたため、異常兵器の使用が許可されたのでしょう。前回、頭部の切断だけでは終了できなかったため、切断後、破壊することにしたと思われますが、この試みも失敗しています。

実験5034-3

状況: 多数の個人コレクターを通じてSCP-5034の販売を追跡した後、財団職員は鉢の中のビー玉を入れたままにして保管しようとした。
結果: 収容は6日間成功した。しかし、7日目に警備員が収容チャンバーに入り、誤って鉢からビー玉を放出した(完全な詳細は解剖レポート5034-29331を参照。)。収容失敗。財団の予算が大幅に影響を受けた。

状況の説明はカモフラージュであり、おそらくSCP-5034を海上で追跡して、戦闘を行い、頭部を切断せずに拘束することに成功し、そのままSCP-5034を収容しようとしたのではないかと思われます。多数の個人コレクターとは、財団と世界オカルト連合の艦船かもしれません。

その結果、収容は6日間成功したものの、7日目に警備員が収容チャンバーに入り、誤って鉢からビー玉を放出、収容失敗したと書かれています。脚注には解剖レポートとあるのでこの警備員はおそらくSCP-5034に肉体を寄生され、操られていたのではないかと思われます。

警備員は何らかの手段(爆発物?)で頭部を切断し、収容チャンバーも破壊したのだと思われます。”誤って”という説明はカモフラージュであると思われます。

実験5034-4

状況: SCP-5034が再発見されると、出動可能な全ての財団職員は、大槌を使ってビー玉を叩き割ろうとした。
結果: 5つのビー玉の破壊に成功した(再生能力のため、6番目の実例の部分的な破壊は不十分だった。)。しかし、その後鉢の中に再出現する。破壊失敗。

SCP-5034が再発見され、生き残った出動可能な全ての財団職員で異常兵器を用いて攻撃したようです。5つの頭部の破壊に成功したものの、再生能力のため、6番目の破壊は不十分となり、破壊に失敗しています。

実験5034-5

状況: SCP-5034が再発見されると、出動可能な全ての財団職員(パンゲア協定に基づき、残りの全ての世界政府と協力して実施。)は、大槌を使ってビー玉を叩き割ろうとした。

結果: 6つのビー玉の破壊に成功した。しかし、その後鉢の中に再出現する。破壊失敗(現在の仮説では、終了の成功の為に7つの実例全てを排除する必要がある。)。

SCP-5034が再発見され、残った全ての世界政府と協力し、出動可能な全ての財団職員により異常兵器で攻撃したようです。

残りの全ての世界政府とあるので、いくつかの国は滅亡していると考えられ、SCP-5034が世界に甚大な被害を与えていることが推測されます。6つの頭部の破壊に成功したものの、頭部が復活したことから、7つ全てを破壊すれば終了できると仮定されたと思われます。

実験5034-6

状況: SCP-5034が再発見されると、全ての財団職員は、手元にある道具でビー玉を破壊しようとした。

結果: 7つ全てのビー玉の破壊に成功した。その後、鉢の中に再出現する(倫理委員会とO5の共同裁決に従い、集団安楽死の選択が現在検討されている。)。

SCP-5034が再発見され、全ての財団職員は、手元にある道具でビー玉を破壊しようとしたとありますが、出勤可能な職員という条件がなくなっており、大槌も使用されていません。これは甚大な被害を被った結果、多くの職員や異常兵器を失い、窮地に立たされた財団が今あるだけの武器・兵器を用いて、総員で最後の攻撃を行ったということだと思われます。

その結果、ついに7つ全てのビー玉の破壊に成功しました。その状況を考えれば、奇跡的な戦果です。しかし、SCP-5034は再生してしまいます。財団は、倫理委員会とO5の共同裁決に従い、集団安楽死の選択を検討しはじめます。

これはSCP-5034による死が避けられず、それが安楽死を検討するほど酷なものであることを物語っているようです。

補遺5034-2:

財団の予算は破産寸前のため、これ以上の実験は不可能です(我らの身体を燃やす。)。

最終的に全資産を使い果たし、財団は抵抗をやめました。”身体を燃やす”とあるのは、警備員がSCP-5034に寄生されたと思われる記述があることから、死後、SCP-5034に身体を操られることを避けるために身体を燃やすことにしたのだと思われます。メタタイトルの肉の天使たちもSCP-5034が肉体に宿ることを表しているのでしょう。財団は敗北したのでした……。

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おわりに

SCP-5034 – 肉の天使たちでした。この作品は48時間でテーマに沿った作品を作るジャムコンテスト2020の作品で、テーマはMore Than Meets The Eye(見た目以上のもの)でした。

脚注でだんだんと不穏になっていくのがいいですね。

本記事ではSCP-5034は第一の獣ではないかと考えましたが、赤と7の数字といえばSCP-231 – 特別職員要件やSCP-2317 – 異世界への扉で言及される神格「緋色の王」を象徴する言葉でもあります。SCP-5034と「緋色の王」には何か関係があるのかもしれません……。

最後までお読み頂きありがとうございました!

SCP-5034 – The Meat Angels
作成年:2020
SCP-5034 – 肉の天使たち
http://scp-jp.wikidot.com/scp-5034
翻訳者 Extra3002
作成年:2020
上記の記事を基にした本記事の内容はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンスに従います。

コメント

  1. 本家の記事にサーキックのタグはついてないけど、
    メタタイトルやMetaphysicianさんの以前のコメントでの「イオンを使って7番目のアルコーン創ろうとしてた」て部分から
    なんとなく個人的にアルコーンかヤルダバオートが関わってそうな気がしますね
    何らかの経緯で7番目が誕生してアルコーンたちが合体して顕現した存在とか…
    5034自身が第一の獣として、本命の赤い竜=龍(女媧)=ヤルダバオートとも想像できるかも

    • 返信遅くなり失礼しました。
      私も最初『肉の天使たち』というメタタイトルを見てサーキックカルトのアルコーンを連想しました。
      ただ根拠が弱いように感じたため、今回はこのような記事になりました。
      いろいろ想像が膨らみますね。